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と言うことで、食後だ。
「はい。お砂糖とミルクたっぷりのコーヒーだよぉ~っ」
さすがの俺でも、コーヒーを淹れるくらいはできる。なので俺は、大手を振ってカワイにコーヒーを用意した。
「ありがとう」
「いいよいいよ。一緒にまったりしようね」
ソファに座り、俺たちはマグカップを互いに持つ。
カワイったら、初めてのコーヒーにおめめをキラキラさせちゃって……。可愛いなぁ~っ、うちのカワイは本当に可愛いなぁ~っ。
「あっ、カワイ。熱いから、飲むときは火傷に気を付けて──」
「──んっ?」
ずずっ。カワイは『ふぅふぅ』と冷ますことなく、コーヒーを啜っていた。
……。……えっ。
「だ、大丈夫? 熱くなかった?」
「熱いけど、冷める前に飲んだ方がいいのかなって」
「そんな配慮しなくて大丈夫なんだよ! 火傷しちゃうよ!」
「この程度の温度で、悪魔はヤケドしない。ボクは強い」
キュンッ! 格好いいじゃないか! 不覚にもときめいたぞ!
俺が内心で惚れ直しをしている間、カワイはコーヒーの味をしっかりと堪能していたらしい。
「甘くておいしい。後味が少しほろ苦いけど、クセになりそう」
感想を零した後、カワイはもう一度コーヒーを啜った。
「だってさ。良かったね、ゼロ太郎」
[カワイ君の舌に合ったのでしたら、幸いです]
ゼロ太郎め、露骨に喜んでいるぞ。なんだかんだでカワイには激甘だよなぁ。微笑ましいから、別にいいんだけどさ。
カワイはコーヒーに舌鼓を打ちつつ、ふと思い出したのか、ポツリと呟いた。
「これを飲むと、人間は目がパキパキになるんだね。……ふーん」
「もしかして、カワイも目が冴えてきちゃった?」
「ううん、そういう状態変化は感じられない。もう少し時間が経ったら話は変わるかもしれないけど、大丈夫だと思う。ボクは強い」
「カフェインは強さ云々の話じゃないと思うけど……」
でも、可愛いのでオールオッケーだ。俺は冷ましつつ、コーヒーを啜る。
「だけど口に合って良かったよ。カワイは甘党さんだから、もしかしたら苦手かなって思ったんだよね」
「確かに甘い食べ物は好きだけど、だからって苦い物がダメなわけじゃない」
「おっ、言うねぇ? じゃあ試しに、こっちも飲んでみる? 甘さ無しのブラックコーヒーだよ」
「望むところ」
妙な闘争心がメラメラと燃えてしまったようだ。そのつもりはないけど、子ども扱いされたと感じたのかもしれない。カワイがムッとしている、気がする。
俺はカワイのマグカップを一度預かり、代わりに自分のマグカップを渡した。……のだが、そこではたと気付く。
えっ、あれっ? もしかしてこれって、間接キスというものになるのでは? ……なんて、甘酸っぱいドキドキを感じたのも束の間。
ずずっ。カワイが一口、ブラックコーヒーを試飲すると──。
「──これは、口にしていいものじゃない……」
「──ごめんねっ、ヤッパリ苦手だよねっ、ごめんねカワイ~っ!」
──カワイのテンションが露骨に下がってしまった!
尻尾がへろぉ~んと垂れ下がり、心なしか意気消沈しているように見える。
これを踏まえて、得られた教訓。自分の強さを、過信してはいけない。カワイは眉を八の字にしながら、俺にスリスリと甘えてきた。
……なぜだろう。勝負をしていたつもりはないけど、不思議と一人勝ちしたような気持ちだ。時折ぶつかるツノの鋭さに驚きつつも、俺はカワイの頭を撫でた。
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