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 カワイの手料理を堪能した後、俺たちは各々の活動をした。  シャワーを浴びたり、ドライヤーで髪を乾かしたり……。そんなこんなで、ついにこの時がやってきた。 「ヒト、そろそろ……」 「そうだね、カワイ。機は熟したね」  そう。……カップアイスを食べる時だ。  俺とカワイは共に冷蔵庫へと向かい、バニラ味のカップアイスを取り出す。一緒にスプーンを用意し、二人揃っていそいそとソファへ移動した。 「ヤッパリ、暑い日のシャワー終わりに食べるアイスは格別だよね」 「そうなの? 知らなかった」  相槌を打ってはいるが、カワイの視線はアイスに釘付けだ。甘いものが好きなカワイにとって、アイスはそれだけで至福だもんね。分かる、分かるよ。  待ちきれない様子のカワイを堪能しつつ、俺はカップアイスを開封。俺の動きを待っていたカワイも、続いてカップアイスを開封した。  ……が、カワイは小首を傾げる。 「さて、と……」 「……ヒト? アイス、食べないの?」  俺が、カップの蓋を開けたのにアイスを放置しているからだ。俺を見て、カワイは訝しんでいる。  俺はスプーンをくるくると指で回しながら、ドヤッと得意気な顔をカワイに向けた。 「ふふふっ。アイスはね、すこぉ~し溶けてからの方が食べやすいし、より一層おいしい感じがするものなんだよ?」 「そうなの? じゃあ、ボクも少し待つ」  なんて素直なのだろう。可愛いじゃないか。  だが、ただ待つのも手持ち無沙汰だ。俺は隣に座るカワイを見て、ニコリと笑みを向けた。 「せっかくだし……夏らしく、いっちょ怪談話でもしようかな」 「カイダン? って、どんな話?」 「怖い話だよ。そうやって、涼しい気持ちになるんだ」 「ふーん。……精神的にヒヤッとしたいなら、強そうな相手にケンカを吹っ掛ける方が何倍もヒヤヒヤすると思うけど」 「あー、う~ん……。命は、かけたくないからねぇ」  カワイの呟きを軽く流しつつ、俺はとっておきの【怖い話】を始める。 「これは、俺が高校生の頃に行った修学旅行中、実際にあった話なんだけど──」 「──コーコーセー? シューガクリョコー?」 「──あっ、そこからかぁ~」  カワイに【高校の修学旅行】を、サラッと説明。カワイはふむふむと頷きながらようやく、話題のスタート地点に立ってくれた。  ……コホンッ! 気を取り直して、もう一度。 「これは、俺が高校生の頃に行った修学旅行中、実際にあった話なんだけど」 「うん」 「その日は、俺を含めて五人でひとつの部屋に泊まったんだ。そこは少し古めかしい、いかにもって感じの和風な旅館だった」 「うん」 「就寝時間が迫った、その日の夜中。突然、一人の男子が飛び起きたんだ。その男子はそのまま、ある一点を指してガタガタと震え始めたんだよ」 「うん」 「俺たちは『なんだろう』って思って、その男子が指す方を見た。そうしたら一人、また一人と言葉にならない悲鳴を上げて、ガタガタと震え始めたんだ」 「うん」 「四人が震えて毛布を被るから、俺も慌てて毛布を被ったんだ。それで、最初に震え始めた男子が『もう一回さっきの方を見てみよう』って言って、全員で一斉に同じ方を見た。だけど、その時にはなにもいなかったんだってさ」 「……うん?」 「そう。分かってくれたかな? ……一回目の時点で俺以外の四人は全員幽霊が見えていたのに、俺だけ最初から最後までなにも見えていなかったんだよ」 「……」 「──怖くない?」 「──ちょっと怖い」  これが、俺が語れるとびっきりの【怖い話】だ。  ちょっと【怪談話】とは違うけど、まぁ、涼しくなってくれたならそれで良しってことで。ちゃんちゃん。

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