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 カワイを守るために、カワイと距離を取る。  それは【物理的な距離】という意味だ。会話や態度は今まで通りを保ちつつ、スキンシップを激減──否、皆無にする。これが、俺とカワイにとって一番良い付き合い方のはず。  そう答えを決めて、翌日の出勤。 「──カワイが足りないぃ~……」  ……からの、休憩時間。俺は事務所で一人になったと同時に、デスクへと突っ伏してそうぼやいた。  足りない、圧倒的に足りない。カワイ成分が足りなすぎる!  思い返せばカワイを保護してからと言うもの、俺は毎日欠かすことなくカワイとスキンシップを取っていた。……いや『取っていた』と言うか『取らせていただいていた』と言うか。  とにかく、俺はカワイとのスキンシップを抜きに生きていけるような体ではなくなってしまったのだ。 「うぅっ、カワイ、カワイ~……」  さめざめ、しくしく、めそめそ。今の俺は、あまりにも情けなかった。  カワイのことが好きで、可能ならば一日中ギュッとしていたい。だけど、そう思っているのは俺だけ。さらに言うのであれば、そういった意味の【好意】を持っているのも俺だけで……。あっ、駄目だ。なんか、泣きそうだぞ。  割と本気でブルーな俺は、まるで弱った虫のようにモゾモゾと蠢く。鞄に手を伸ばし、カワイが持たせてくれたお弁当箱を取り出すためだ。  そんな時、背後から声がした。 「追着様、いかがなさいましたでございましょうか?」 「げっ、草原君っ」 「不服申し立てを許可していただきたくなるお返事でございますね」  なんて独特な返しだろう。俺も、それに対する草原君も。  と言うことで、草原君がやって来た。もしかして、今日も月君を探しているのかな。生憎と、今日も月君は不在なんだけど……。  ……いや、待てよ。これは、ビッグチャンスだ。俺は姿勢を正し、そばに立つ草原君を見上げた。  草原君は、紛うことなき悪魔。つまり、俺の知り合いの中で最もカワイと感性が似ている相手だ。 「ねぇ、草原君。ちょっと質問してもいいかな」 「良いでございます」  草原君は頷いた後、いつも月君が座っている椅子に座った。なぜか、尻尾を左右にゆっくりと振りながら。 「実は今、悪魔の子と絶賛同棲中なんだよね、俺」 「はい。先日そう仰っていたので、存じてございますよ」 「それで【悪魔】っていう種族について、ひとつ教えてほしいんだけど……」 「なんでございましょうか」  ひとつの、間を置く。俺に合わせて、草原君も口を閉ざした。  こんなチャンス、もう無いかもしれない。だから、勇気を出して訊いてみよう。俺は膝の上で拳を握って、至極真剣な真顔で草原君を見た。  なんだかんだと保留にし、さも『そんなこと一度も考えたことないよ』といった態度を取り続け、だけどずっとずっと気になっていたことを訊ねるために。俺は、ようやく口を開いた。 「──悪魔が生きていくために、人間から精気を奪う。……つまり、セックスをするのってさ。ファンタジーなフィクション、なのかな?」  ポケットの中でスマホがブブブッと振動しているけど、気付いていないフリをしよう。十中八九、百発百中、ゼロ太郎が原因だ。  俺の、真面目な問い。草原君はその重みを理解してくれたのか、涼しい表情を崩すことなく、口を開く。  そして紡がれた、真実は──。 「──ファンタジーなフィクションでございます」 「──そっ、そんな……っ」  答えはある種、残酷。……そう。  残酷な、悪魔のテーゼだった。

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