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 草原君の答えは止まらない。 「吸血鬼が十字架とニンニクを嫌い、銀の弾丸で死ぬという逸話も然りでございますが、そういったお話は全て【人間の願望】でございます。未知の存在に都合の良い解釈や設定を付け、人間は心の安息と平穏を得ようとしたのでございましょう」  思えば草原君が表情を崩すことなんて滅多にないどころか、俺は一度も見たことがないのだが。それにしたって、草原君の表情はマジすぎる。  つまり、草原君が口にしている言葉は全て真実。本気の答えなのだ。  止まらない、残酷な答え。ついでに言うのなら……。 「あ、あぁ、ああ、あ!」  俺の絶望も、止まらない。  頭を抱えて呻く俺を見つめながら、草原君は矢継ぎ早に【俺に真実を突き付けている理由】を口にした。 「ですので、あなた様がお拾いになられた悪魔に危害を加えられる可能性は極めて低い、と。そう思ってくださって問題ございません。ご安心くださいませ」 「──そんなぁッ!」 「──安心安全な回答でございますのに、なぜ悲壮にまみれたお顔をなさっているのでございましょうか?」  呆然、|竦然《しょうぜん》。視界も煙ってしまうほどの答えだ。  いやだって、待ってよ。そうなると、俺の父親って本気の本気で【好奇心】だけが理由で人間の女性を孕ませたってことにならない? 最低じゃん! 分かってはいたけど、フォローも弁明もできないくらいマジで最低な男じゃんか!  ……ハッ、いかんいかん。動揺のあまり、話がぶっ飛びすぎてしまった。せっかく真実を話してくれた草原君も、心配そうに俺を見つめて──……いる、の、かな? いつも通りの無表情だから、ちょっとよく分からないぞ。  とにかく、俺が絶望している理由に皆目見当もつかない様子だ。俺は震える体をなんとか黙らせて、強張った筋肉を動かし、笑みを浮かべた。 「い、いや、実は、さ? 最近、保護した悪魔のことが、その……」  うっ、照れる。照れるぞ、この話題!  思い返すと、好きな子の話なんて誰かとした経験が無い。カワイと恋バナをしたことはあっても、明確に【好きな相手】を特定した話題はしていないのだ。  自分で始めた話題のくせに、落ち着かない。俺はしどろもどろになりながら、なんともまとまりのない言葉を紡ぐ。  だが、さすが草原君だ。ピッと手のひらを俺に向けて、左右に首を振る。『皆まで言うな』と言いたげな態度だ。  どうやら、俺の言いたいことを察してくれたらしい。さすが、人間よりも色々と優れた種族──。 「──なるほど。つまり、追着様は保護対象であるはずの悪魔に恋をしたのですね。それで、あわよくばの展開を狙っていた……と。そういうことでございましょう?」 「──いざハッキリ言われると、俺がメチャクチャ最低な男みたいに聞こえるね……」  そこまで露骨に狙ってはいないけど、まぁ多少は──……って。これ以上考えるのはやめよう。後でスマホを見るのが怖くなる。  この話題はもう、この辺りでやめておこう。俺は苦笑いを浮かべつつ、ふと大切なことを思い出した。 「そう言えば、今日は月君、会議に出ちゃったよ。また入れ違いになっちゃったね」  おそらく、草原君がここに来たのは月君を探していたからだろう。引き留めたくせにこんな答えで申し訳ないが、俺は草原君にそう伝えた。  すると、草原君は意外にもすんなりと受け入れてくれたらしい。 「──ご安心を。今日は事前に勤怠管理システムに登録されている竹力様のスケジュールを確認したので、承知しておりましたでございます」 「──あっ、そうなんだ。それは、なによりだよ……?」  そうかそうか、月君が不在なのは知っていて……。  ……えっ? じゃあ今日は、どうしてこっちの事務所に? 不思議キャラ草原君の謎は、解明されなかった。

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