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結局、ヒトがバリバリッと作業に区切りを付けたから、ボクたちは一緒にリビングでご飯を食べた。
ヒトは始終、大喜び。嬉しそうにカツサンドを食べてくれた。
「あ~っ、カツサンドおいしかった! おいしい料理をいつもありがとうカワイ、ゼロ太郎!」
「喜んでもらえて良かった」
[どういたしまして]
嬉しそうなヒトは自分のお腹をポンポンと叩いて、イスの背もたれに背中を預けている。リラックスモードみたい。
かと思いきや突然、ヒトは勢いよく起き上がった。
「さて! ご飯の後はデザートだよねっ!」
しまった、どうしよう。そこは、盲点。……つまり、用意していない。
そもそもヒトが甘いものを欲しがるなんて、思っていなかった。ボクはビックリしちゃったから、動きを止めてしまう。
だけど、ヒトはとっても嬉しそうに……。
「と言うことで! カワイ、スマイルちょ~だいっ!」
「──お持ち帰り?」
「──まさかのテイクアウト」
デザートの話は、どこへやら。ヒトに笑顔を要求された。
でも、ここは家。思えばボクはもう、お持ち帰りされちゃっているよね。……ふふっ。無意識のうちに尻尾が揺れてしまうけど、ボクは気付かない。
……あっ、一人で喜んでいる場合じゃないよね。ボクはヒトと向き合う。
笑顔、笑顔……。あまり得意じゃないけど、ヒトの頼みならなんだって叶えたい。だからボクは、ボクなりに口角を上げてみた。
それから、一言添えると……。
「仕事お疲れ様、ヒト」
「あぐぅッ!」
なぜかヒトが、イスから崩れ落ちた。ちゃんと座っていたように見えたけど、どうしてだろう。
それにしても、デザート。なにか、丁度いいものあったかな。モワンモワンと、冷蔵庫の中を思い返す。
「……あっ、そうだ。ヒト、デザート持ってくるからちょっと待ってて」
「えっ? いや、今のは『カワイのスマイルがデザート』って意味のおねだりだったんだけど……」
「──うん? 笑顔は食べ物じゃないよ?」
「──無垢な正論が突き刺さる……ッ!」
ゼロタローが[オヤジ臭いって意味ですよ]と言い、ヒトが「そんなことないもん!」と言っている。よく分からないけど、仲良くじゃれているってことかな。なんだか、嬉しい。
冷蔵庫から食卓テーブルに戻ると、なぜかヒトはグッタリしていた。暑いのかな、心配。
だけど、そんな暑さもこれがあれば万事解決。そんな気持ちで、ボクは冷蔵庫の中で冷やしていたものをテーブルの上に置いた。
「これ、昨日から冷蔵庫で冷やしてたデザート。みかんの炭酸水漬け」
「おぉっ、清涼感!」
持ってきたのは説明した通り、みかんを炭酸水で漬けたもの。シンプルだけど、これが結構すごくすごい。侮ることなかれ、おいしいのだ。
「ビンにみかんを入れて、そこに炭酸水を注ぎ込んで、半日放置したら完成。一緒に食べよう」
「これなら甘いのが苦手な俺でも食べられそう! さすが俺のカワイだ! いただきますっ!」
また『俺のカワイ』って言ってもらえた。嬉しい。
ヒトにスプーンを渡して、いざ実食。ボクは好きだけど、ヒトにとってはどうだろう。先ずは、ヒトの反応を窺おう。
でも、どうやら心配無用だったみたい。
「なんっだこれ! 噛むと炭酸がジュワッてする!」
「おいしいよね。時々、こっそり作ってる」
「知らなかった! でもリピートする気持ちは分かる!」
ヒトが苦手だったらどうしようかと思ったけど、杞憂だったらしい。嬉しくなって、ボクも食べ始める。
よほど気に入ってくれたのか、ヒトは笑顔だ。キラキラの眩しい笑顔で、ボクを見ている。
「うんっ、本当においしいっ! 今度また作ってほしいなっ!」
「うん、いいよ。約束」
片手をヒトに伸ばして、小指を立てた。ボクの挙動の意味を理解したヒトは、すぐにボクの小指にヒトの小指を絡めてくれる。
指切りは、好き。こうすると、ヒトとの約束が増えていくから。ボクは嬉しい気持ちになったから、みかんの炭酸水漬けがもっと好きになった。
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