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 デザートを食べ終えてからもボクは家事をして、ヒトは部屋に籠って仕事を続けた。  だけど、陽が傾いた頃。ヒトが突然、ひょっこりとキッチンに姿を現した。 「ヒト、どうしたの。仕事、終わった?」 [お疲れ様です、主様]  今は、眼鏡をしていない。と言うことはパソコン作業──仕事が終わったってことかな。ボクはゼロタローとの夕食についての打ち合わせを中断して、ヒトを振り返った。  ボクとゼロタローの声に苦笑しながら、ヒトはボクに近寄る。 「いやぁ~、ご期待に沿えず申し訳ないんだけど、ちょっとした息抜きだよ。カワイとゼロ太郎がいつもしてくれている家事で、俺にもなにか手伝えることはあるかなぁ~って」 「ううん、いい。ヒトは休んでいて」 [主様がおらずとも、作業はつつがなく進行いたします] 「むしろ、ヒトがいると作業が乱れる」 [私とカワイ君が築き上げたペースと言うものがありますので] 「──うんうん、取り付く島もないね」  ヒトはチラチラとボクたちを見ているけど、ボクたちはウソも遠慮も言っていない。だから、ボクは力強く頷いて見せた。  ボクたちの態度を受けて、理解してくれたらしい。ヒトはほっぺを掻いて、それから……。 「あっ、はい。では、お言葉に甘えます……」 「うん、甘えて」 [お任せを]  背中を丸めて、キッチンから去っていった。  ……今の言い方はちょっと、冷たかったかな。ゼロタローと献立の打ち合わせを再開しつつ、ボクはさっきの態度を反省する。  ヒトは善意で言ってくれたのに、素っ気なかったかもしれない。だから、ヒトに謝ろう。打ち合わせを終えてから、ボクはヒトを探すためにキッチンから移動した。  すると意外なことに、ヒトは作業に戻ったわけではなく、リビングのソファに座っていたらしい。そこで、背を丸めている。  ヤッパリ、落ち込ませちゃったのかな。ボクは恐る恐る、ヒトに近付いた。 「ヒト、さっきは──」 「──うわァッ! カッ、カワイッ?」  てっきり、落ち込んでいるから俯いているのかと思ったけど……どうやら、違ったみたい。ヒトの手には、スマホが握られていたのだから。 「今、ボクからスマホを隠した」  スマホで、なにかを見ていた。ボクは眉を寄せて、ヒトに詰め寄る。 「見た?」 「見てない」 「……見たい?」 「うん」 「じゃあ、特別に見せちゃおうかな~」  あれ、意外とあっさり。ヒトはボクを手招きして、隣に座るように促した。すぐにボクは回り込んで、ソファに座る。  隣に座ると、ヒトはニコニコ笑顔でスマホを見せてくれた。そこに表示されていたのは……。 「これって、ネコ?」 「そう、猫だよ」  ネコだ。体毛が銀色っぽい、ネコ。ネコの写真が、ズラリ。……ボクが人間界に初めて来た時の姿に似ているネコが、画面にはいっぱい表示されていた。  なんで、沢山の種類がある中でこの色のネコなんだろう。ボクは顔を上げて、ヒトを見た。  すぐにヒトは、ボクの無言の問いに答えてくれる。 「毛が白って言うか、銀っぽい猫を見るとね……なんだろう。ソワッとするような。そんな、ちょっと不思議な気持ちになるんだ」 「ヒト、それって……」  もしかして、ボクのことを覚えて……? 思わずそう考えて、ボクはすぐに否定した。  ううん、そんなはずない。あんな一瞬の出来事、あの頃のヒトが覚えているはずがないよ。あの頃の、限界でいっぱいいっぱいだったヒトが覚えているはず、ない。  でも、もしかすると……。考えてから、ボクはハッとした。 「──でも他のネコを見たことに変わりはない。許さない」 「──ああっ! スマホが没収されたっ!」  ヒトが浮気した事実を危うく見逃しそうになったので、急いでスマホを没収する。  ヒトの浮気相手なんて、真っ二つにされても文句は言えない。ボクはヒトのスマホを折ろうとした。 「ちょっ、待って待って! それは駄目ーッ!」 「わっ!」  だけど、その前に。……ドシン、と。  ──ボクは、ヒトに押し倒された。

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