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6.5 : 10
シャワーの後、残すは就寝準備のみ。
と言うことで、ボクたちは各々の作業を終えてから同じ寝室に向かった。
「今日は働いたなぁ~っ! カワイとゼロ太郎が居てくれたおかげで、いつもより達成感って言うか充足感って言うか……とにかく、いつもの仕事とは違う気持ちで働けたよ!」
「よく分からないけど、ヒトが嬉しいなら良かった」
[仕事に対するコメントとしては不可思議ですが、主様が満足しているのならなによりですね]
好きじゃない仕事をずっとしていたのに、ヒトは笑顔だ。それでいて、前向き。
ヒトのこういうところを、ボクは尊敬している。心から、すごくすごいって思う。
だからボクは、ヒトのことが大好き。
「でも、もう少し癒しがほしいなぁ~……なんて。チラチラッ」
大好きだから、こんなおねだりも叶えたくなっちゃう。だってボクは、ヒトのことがとっても大好きだから。
もしかすると、今日のヒトは甘えん坊な気分なのかな。……そんなヒトも、カワイイ。
ボクは隣に寝転がるヒトを見て、瞳を細めた。
「うん、いいよ。好きなだけ甘えて」
「ありがとうっ! それじゃあ早速、カワイの尻尾を触らせてほしいなっ!」
「──っ! それはダメ! ヒトのえっち!」
「──くっ! その反応が見たかったんですっ!」
拒否したのに、なぜか満足されたみたい。よく分からないけど、ヒトはえっちだ。
ヒトはボクに感謝をしながら、ボクの体をギューッと強く抱き締める。かと思いきや突然、なにかに絶望したかのような声を出した。
「ど、どうしよう。全然寝たくないのに、眠たい」
言うと同時に、ヒトはわなわなと震え始める。……ヒトは、忙しない。
「寝たら、明日がくる。明日は、今日やった仕事を職場に持って行かなくちゃいけないから実質、出勤みたいなもの……! どうしよう、どうしよう、どうしよう……!」
「ヒト」
「カワイ、助け──」
なんだか、忙しそう。ボクはヒトの頭を、ぽんっと撫でた。
それからもう一度、瞳を細めて……。
「──一緒にねんね、しよ?」
「──する」
言ってから、ボクは驚いた。ヒトは、すごくすごい。
……たったこれだけの寝かしつけなのに、三秒で寝たんだもん。すごく、すごい。
すやすやと眠るヒトを見ていると、なんだか不思議な気持ち。たぶん、これは【母性】ってものかも。自信が無ければ確かめる方法も分からないから、不確定だけど。
そこで、ボクは気付いた。
「ねぇ、ゼロタロー。ヒト、少し顔色が悪い?」
ヒトの顔色が、心なしか悪い気がする。部屋が暗いから……では、ないと思う。純粋に、顔色だ。
すぐに、ゼロタローが答える。でも……。
[それは……。……仕事疲れ、ではないでしょうか]
「そっか」
一瞬、ゼロタローが答えに詰まったような気がした。
その直後、ボクの耳は捉える。
「──……さ、い……」
「ヒト?」
たぶん、寝言。ボクはすぐに、ヒトを見る。
ヒトが今、なにかを言ったような気がするけど……気のせい、かな。ボクはそっと、ヒトに近付く。
すると、ヒトはボクにくっついた。だけど、くっついて寝るのはいつものこと。
でも……。
「あのね、ゼロタロー。……ヒトはね。時々、ボクに縋りついているような抱き着き方をする」
[はい]
「甘えている、とも、少し違う。……それが、ね。その、ほんの些細な動きが……」
ヒトの頭を撫でてから、ボクは続く言葉を紡ぐ。
「──どうしてだろう。ボクの胸を、締め付ける」
今のヒトは、まさにそれ。だけどボクは、この行動に対する正しい名称を知らない。だから、フワフワとした言葉しか伝えられなかった。
ボクの言葉を聴いてから、しばしの間。それからゼロタローは、ポンと言葉を放った。
[カワイ君。ひとつ、抽象的ではありますが確定した未来に対するお願いをさせてください]
「うん。なに?」
[──どんな主様になっても、そばにいてあげてください。主様を、見捨てないであげてください]
……それは、どういう意味だろう。ホントに、抽象的だ。
でも、ゼロタローが冗談でそんなことを言うとは思えない。それに、今のゼロタローはどこか切羽詰まっているような、そんな雰囲気。
だからボクは、ヒトの頭を撫でながら言葉を返した。
「──わざわざ頼む必要なんてないよ。ボクはずっと、ヒトと一緒にいる」
ボクは、ヒトを捨てたりなんかしない。ボクはずっと、ヒトと一緒にいる。ボクはずっとずっと、ヒトが大好きだから。
……例え、近い未来。
──ヒトがボクに、血が出るほどの傷を付けたって。
6.5章【未熟な悪魔は支えるだけです】 了
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