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7章【未熟な悪魔は伝えました】 1

 完全に、油断していた。そう後悔したところで、遅いのかもしれない。  目が覚めると同時、俺の本日一発目の思考が確定。言うまでもなく【後悔】だ。  瞼を上げて、ぼんやりと部屋を眺める。いつも通りの室内が、こんな時はほんの少し恨めしく思えたりするから、困ったものだ。  まさに、最悪の目覚め。だけどこんな目覚めが、実は初めてではない。……だからこそ、俺の気分は最悪だ。  そんなこんなで気分の悪い起床を果たすと、頭上からポンと音が響く。 [主様、おはようございます。お体の具合は最悪、まさに絶不調ですね] 「おはよう、ゼロ太郎。せめて会話にジャブを入れてくれないかな」 [失礼いたしました。……こほんっ。季節はどんどん秋めいてまいりましたね。せっかくですし、お花見の次はカワイ君と紅葉狩りなんてどうでしょう? ところで、主様は紅葉を眺めることをどうして【狩り】と呼ぶかご存知ですか?] 「ごめん、俺が悪かった。その話は、また今度」  朝はいつだって気怠いけど、それでもいつも以上に重たく感じる体を起こして、頭を掻く。するともう一度、ゼロ太郎の声が降ってきた。 [──いつもの、ですよね]  咄嗟に、返事ができない。俺は頭から手を下ろして、俯いた。 「ゼロ太郎は本当に、ド直球で核心を突いてくるね。そういうところ、結構好きだよ」 [ありがとう存じます。ですが、この期に及んで私に隠し事をなさろうとする主様を、私は好ましく思いません]  相変わらず、辛辣だ。それでいて、物言いがストレート。でも、そんな応対に安堵しているのも事実。なんだかんだで俺は、こういうゼロ太郎が好きなのだ。  俺はベッドに座って俯いたまま、ゼロ太郎との会話を続行する。 「カワイは?」 [いつも通り、朝食と昼食用のお弁当を準備しています] 「そっか。今日も可愛いなら本望だよ」 [寝言は寝ながら放つ言葉ですよ]  俺は意味もなく床を見つめたまま、ゼロ太郎にポツリと疑問を投げた。 「ねぇ、ゼロ太郎。これ、カワイに隠せると思う?」 [無理かと問われれば無理ですし、可能かと問われれば無理ですね] 「ハッキリ『無理』って言ってよ……」  と言うことは、覚悟を決めよう。ゼロ太郎がそう言っているし、俺もそう思っているからね。俺は観念して、ベッドから降りた。  ……それは、いつも突然やって来る。だけど、今回はある意味【予兆】なのかもしれない。なぜならこうして、自力ですんなりと立ち上がれるのだから。まだ良い方だろう。  さて、気合いを入れよう。愛するカワイにかけられる心配を、少しでも減らしたいからね。俺は自分の頬を叩いた後、寝室から移動を始めた。 「おはよう、カワイ。起きて早速で申し訳ないんだけど、朝ご飯ってできてるかな?」 「おはよう、ヒト。できてるよ」  今日も可愛いカワイを見て、ちょっと元気になってきたぞ。俺は食卓テーブルに近寄って、すぐに椅子へと腰を下ろす。  カワイは朝食を並べながら、不思議そうに俺を見た。 「珍しいね。ヒトが自分から、朝ご飯を食べたがるの」 「あー、うぅーん。……ちょっとね、うん」  配膳も手伝えないとは、情けない。俺は曖昧な返事をした後、カワイとゼロ太郎お手製の朝食を食べ始めた。  ……それから、数分後。 「ごめん、カワイ。白ご飯のおかわりってある?」 「えっ? ……あ、ごめんね。今ので、全部」  だよねぇ~。俺は「気にしないで」と言って、残ったオカズを平らげた。  カワイは俺の正面に座って、ほんのりと不可解そうな表情を浮かべる。 「ヒトが朝からこんなに食欲あるなんて、想定できなかった。ホントに今日は、珍しいね」 「食欲、と言えば……まぁ、食欲なのかな」  はてさて、どう説明したものか。悩んでいると、不意に。 [──カワイ君。主様は時折、悪魔として大量の魔力が必要になるのです。それをこうして、食物から摂取するときがあるのですよ]  ポンと、低音ボイスのアシストが入った。

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