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キョトン。カワイの表情は、その一言に尽きる。
にわかには信じられないのか、カワイは天井に向けていた視線を俺に向けた。
「えっ? ……そうなの、ヒト?」
「お恥ずかしながら、ゼロ太郎の言う通りです」
本人に確認を取るその姿勢、偉いよ。カワイは第三者からの発言だけで考えを左右されたりしない利発な子なんだね。そんなところも好きだよ。
なんて、何回目かの惚れ直しを終えて。なぜだかどうにも気恥ずかしい心境を抱きつつ、俺はカワイを見た。
「いやぁ~……俺、純正の悪魔じゃないからさ。ただでさえ魔界に比べて人間界は空気中の魔力濃度が低いらしいのに、それを自分の力で吸収するっていうのは、俺にとっては不可能に近い話なんだよ」
「確かに、人間界は魔力濃度が低い。悪魔でも、ここで魔力を吸収するのは至難」
どうやらご理解いただけたらしい。さすが、同じ悪魔のカワイだ。さらに言うのなら、それが理由で行き倒れていた悪魔の発言は重みが違う。結論、話が早い。
[ゆえに主様はこうして、食事によって摂取した栄養を魔力に変換しているのです]
「だから『食欲』は少し語弊がある言い回しなんだ」
ゼロ太郎の補足説明を受け、カワイは「そうなんだ」と相槌を打つ。
うぅ~ん、なんだろう。カワイに俺の出生について話はしたけど、ヤッパリちょっと気まずいと言うか、居心地が悪いと言うか……。考えてから、俺は理解する。
なぜ、この話題にこんなにも不快感じみたものを抱くのか。理由は、簡単だった。
──他の誰でもない俺が、俺の血筋を嫌っているから。それでも【悪魔の血が流れている】と否が応でも認めるしかないこの不調が、不愉快で堪らないからだ。
しかし、そんなことは誰にも関係無い。無論、カワイにだって関係が無いのだ。
「だからこれから数日、俺は異常なほどご飯を食べまくると思います。ご迷惑をお掛けしますが、何卒」
「改まらなくても大丈夫だよ。ボクとゼロタローに任せて」
なんて頼もしい二人だろう。
「それと、話してくれてありがとう。イヤなことなのに、教えてくれてありがとう」
「カワイ……」
「──じゃあ応急処置として、ボクの体液舐める? 魔力濃度百パーセントだよ」
「──いいのッ?」
って、駄目だ駄目! 保て理性! 仮に同意の上だとしても、壁やら天井やらがビカビカと赤く光っている! つまり、ゼロ太郎様のお許しが出ていない!
揺れる欲望を強引に押し込めつつ、俺はカワイに手の平を向ける。それから、カワイに一言。
「──それはまた、そのうち」
[──オイコラ]
人工知能らしからぬ悪態が聞こえた気もするが、現状として俺は思い留まっているのだ。ゼロ太郎様にはどうか、俺のこの行動で手打ちにしてほしい。
なぜかカワイは「そう……」と言って尻尾をひょろんと垂れ下がらせているが、その態度はいただけない。今すぐカワイをいただきたくなるからだ。やめてほしい、理性のために。それと、俺の人生のためにも。
とにもかくにも、紆余曲折。全員が全員思うことを呑み込みつつ、俺たちは朝食へと進むのであった。
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