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 帰宅して早々、俺は猛烈に嬉しい光景を目の当たりにした。 「おかえり、ヒト」 「カワイ! 玄関でお出迎えなんて珍しいねっ、ただいま!」  なんと珍しく、カワイが玄関前で俺を待っていてくれたのだ! これは陽斗さん、元気が出ちゃうぞぉ~っ!  しかも、さらに嬉しい出来事が。なんとなんと、カワイが俺の腕をギュッと両手で掴んでくれたのだ。 「今日の夕飯は、とってもすごくすごいよ」 「いつもおいしくてすごくすごいのに? なんだろうっ、なんだろう~っ?」  なんだろう。この、新婚さんのようなやり取りは。今朝はカワイへのプロポーズをゼロ太郎に阻止されたはずだったが、どうやら気付いていない間に俺たちは結婚していたらしい。なにを言っているのか分からないかもしれないが、俺にも分かっていない。  などと現実からトリップしそうになる俺を、カワイはグイグイと引っ張る。それはもう、割と遠慮のない力で。  それほどまでに、今日のお夕飯を早く見てほしいのだろう。俺はもつれそうになる足をどうにか動かして、玄関先で靴をポイポイッと脱ぎ、リビングへと向かった。  そこで俺は、とんでもない食卓テーブルを見ることとなる。 「こっ、これは……!」  俺が動揺を露わにすると、カワイは平たい胸をムンッと張った。どこからどう見ても、自信に満ちた様子で。 「先ずは和食部門。サバの味噌煮、ひじきと油揚げの煮物、茶碗蒸し、里芋の煮っころがし」 「おぉ、おお……」 [お次は洋食部門です。レタスとトマトのスープに、鮭のムニエル。他にもコールスローサラダとロールキャベツです] 「わあ、わっ、わぁ……」 「あとは、シュウマイと五目春巻き。デザートにはアイスを買ったから、ボクお手製のジャムをふんだんにかけて召し上がれ」 「なにこれすっごい!」  カワイをアシストするようにゼロ太郎からもお夕飯の説明を受けた俺は、ひたすらに愕然とする。  食卓テーブルには、所狭しと言いたげに料理が並んでいた。部屋にある食器では足りなかったのか、中には調理器具に収まったままの料理や紙皿の上に載せられた料理まである。  俺は食卓テーブルの角をガッと掴み、並んだ料理たちを次々に眺めた。 「いや量! 量がヤバイ! なにこれっ、えっ、ゼロ太郎に教わって作ったのっ? カワイの手作りっ?」 「デザートのアイス以外は、そう」 「焼売と春巻きも作ったのっ? って言うか、これって【せいろ】じゃん! お店にしかないと思ってた!」 「エツに頼んで、ホームセンターに置いてもらった」 「えっ、誰っ? でもありがとう!」 「どういたしまして」  聞き覚えがあるような、ないような。とにもかくにも、どうやらカワイは人間界で知り合いができたらしい。少し寂しいけど、嬉しさもある。  それにしても、本当にすごくすごい夕食だ。俺は感動や興奮でワナワナと体を震わせてしまうが、しかし料理からは視線が外せない。  俺はそっと、目元を指で拭う。 「ありがとう、こんなに沢山のすごくすごい料理を用意してくれて。あとは、カワイが俺の膝に乗ってご飯を食べさせてくれたら元気いっぱいに──」 [──カワイ君。主様のお食事には時間がかかると推測されますので、先にお風呂はどうでしょうか?] 「そうだね、分かった」 「あっれぇ~っ?」  流れで欲望を成就させようとしたら、あまりにも華麗な流れでゼロ太郎に阻止された! なっ、なぜっ!  しかし、カワイは優しい悪魔だ。ゼロ太郎に『俺のため』と言われれば、次の行動は即決。カワイは頷いた後、すぐに入浴の準備を始めたのだった。

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