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そんなこんなで、カワイは浴室へとゴー。俺は部屋着に着替えてから、ゼロ太郎に見守られつつ豪勢な料理を食べ始めた。
「カワイを膝に乗せてご飯が食べたい。カワイにあーんってしてもらいたい。カワイ、カワイ……」
入浴中なら仕方がないけど、ご飯を食べながらカワイの顔が見られないのは寂しいなぁ。
[口にものを入れたまま喋らないでください。お行儀が悪いですよ]
「うえ~んっ、正論~っ」
素直に、ゼロ太郎の注意を受け入れる。口に入れたものを呑み込んで、俺はポソッと呟いた。
「……今日もご飯、おいしいなぁ」
でも、ヤッパリ味付けが少し違うような。なんとなく、全体的に薄味な気がする。レタスとトマトのスープにスプーンを差し込んで、俺は動きを止めた。
もしかして、料理の量が増えたから味付けで塩分とかカロリーをカットしている、とか? だとしたら、本当にカワイとゼロ太郎はすごくすごい。
俺が二人に対して感謝やら感動やらを向けていると、不意にゼロ太郎の声がポンと響いた。
[主様、体調はどうですか]
訊ねられて、ハッとする。俺は慌てて、笑顔を取り繕った。
ここで思い詰めたような表情を浮かべてしまっては、ゼロ太郎とカワイの善意に対して申し訳が立たない。俺は笑顔のまま、部屋の上方に目を向ける。
「平気だよ、元気元気! 今朝も訊いてきたけど、もしかして俺の顔色って悪かったりする?」
[いえ。いつもと変わらず間抜け面です]
「そこまで言わなくてよろしい」
ゼロ太郎こそ、いつもと変わらない辛辣さだ。心配してくれているのかどうか、疑わしいほどに。
だけど、ゼロ太郎の気持ちは分かっているつもりだ。だから俺は、視線を思わずテーブルに落としてしまう。
「念のため、今日は早く寝るつもりだよ。心配してくれてありがとうね、ゼロ太郎」
返事は、やはりサッパリとしたものだった。
[当然です。私は、主様をサポートするための人工知能ですから]
「あははっ! そうだったね!」
まぁ『早く寝る』と言っても、今日も残業をバチッと決めてきたので既に遅い時間な気もするけど。普段に比べて早く、という意味で受け取ってもらおうではないか。料理を食べ進めながら、俺は一人で頷く。
……しかし、困ったものだ。食べても食べても、胃が満たされてくれない。むしろ、空腹感が増しているような気さえしてくる。
俺はスプーンを噛んで、思わず呟いてしまった。「嫌になるな、本当に」と。
しかし、いつも以上にカワイとゼロ太郎の手料理を沢山食べられているのも事実。まるで、料理以外にも幸福そのものを噛みしめているようで……。
「──これは、正直に『カワイは俺の妻です』って言うべきなのかな?」
[──虚偽の発言は推奨できません]
思わず俺は、先ほどとは打って変わって頬を緩ませながら呟いてしまった。ゼロ太郎からは厳しいツッコミが入り、俺は料理を食べ進めつつ思いの丈を零しまくる。
「いやだって、俺のためにゼロ太郎から教わって料理を頑張るとか、もうそういうことじゃん。旦那のために尽くす妻、的な……ねぇ? 今の時代にはちょっと古い価値観かもしれないけど、でもそういう見方もできるというか、ね? ……あれ? ねっ、ゼロ太郎っ?」
[──えっ? あぁ、申し訳ございません。私に話しかけているとは思いませんでした]
「──二人きりなのに?」
本当に俺のこと、心配してくれているんだよね? 強固たる信頼関係が揺らぎそうになる瞬間だったと、数秒後に俺は語るのであった。
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