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誰が悪いって、俺が悪いよね。事の重大さに気付くと同時にダラダラと冷や汗をかきながら、俺は怯えまくりつつ、隣に座るカワイを見た。
理由は分からないけど、カワイはやけに【猫】を敵視している。知っていたはずなのに、俺はカワイに対してタブーを口にしてしまったのだ。
……ちなみにこれから語る話は、ちょっとした現実逃避。少しだけ、お付き合いいただきたい。
俺はある日、カワイが猫をやけに敵視している点について、ある仮説を立ててみた。『もしかして悪魔は、生理的に【猫】を受け付けられないのでは?』と。
なので試しに、カワイ以外の悪魔──草原君に訊いてみたのだけれど……。
『お猫様は愛くるしい存在だと、僕の頭にはインプットされているでございます。無論、竹力様の愛くるしさには敵わないのでございますが──……そう言えば先日、竹力様が』
あっ、やめよう。回想、中止。その後、三十分くらい月君の布教をされたんだった。先輩として気まずくなるくらい、月君の布教をされたんだよ。
つまり、結論。カワイが猫を敵視しているのは、カワイの中で猫となにかがあったから。悪魔云々は、どうやら関係ないらしい。
さて、現実に戻ろう。つまり……以上の点を踏まえると、やはり悪いのは俺だ。カワイは何度か猫に対して敵意を抱いているといった旨の主張を俺にしていたのだから、配慮に欠けていた俺が悪い。
百パーセント、落ち度は俺にある。ということで、一秒でも早く謝罪と反省の意を示さなくては。俺はすぐさま隣に座るカワイに向き直り、己が出せる誠心誠意の気持ちを伝えようとした。
「えっと、えーっと! ……あっ、そうだ! カワイ、なにか欲しい物ないかなっ?」
「買収?」
「いや直接的な表現すぎる! 違うよご機嫌取りだよ!」
「買収」
くっ! 言い訳できない! さすがのゼロ太郎も[そうですね。このタイミングでその話題の切り出し方は、完全に買収ですね]と言っている!
うわぁ~んっ、どうしよう! もうここから話題を変えるなんてできそうにないし、買収の方向で話を進めるしかない~っ! 俺はグルグルと思考をフル回転させた。
なにか、なにかないか! カワイのご機嫌取りができる、なにかが──。
『そう言えば先日、竹力様が圧力鍋なるものを購入なさったのでございます。僕は詳しく圧力鍋というものを存じ上げてはいないのでございますが、その道具はとても有益で有用な物だと、竹力様が瞳を輝かせて僕に教えてくれたのでございます。もしかしてあれは、同棲のお誘いだったのでございましょうか?』
ピキーンッ! さっき中断した草原君の回想が、俺に天啓を与えた!
正直、圧力鍋からの同棲はよく分からなかったよ! 分からなかったけど、草原君ありがとう!
天啓を得ると同時に草原君へ感謝を告げ、俺はカワイの両手をムギュッと握った。
「カワイ! 圧力鍋! 圧力鍋なんてどうかな!」
突然俺に手を握られたことに対してなのか、それとも俺の剣幕に対してなのか。カワイは瞳を丸くして、珍しく表情を分かり易く変えた。
驚きが先行したからか、カワイは俺に三度目の『買収』と言ってこない。動揺しているのか「え、っと……」と、これまた珍しく、しどろもどろな様子だ。
しかし、律儀なカワイは俺に対して怒っていたとしても、きちんと返事をしてくれる。
「圧力鍋は、確かにすごくすごい。欲しいとは思う、けど……」
「……『けど』?」
これは、好印象! この際、カワイやゼロ太郎に『買収』と言われたって構うもんか! カワイの懸念を払拭して、いざ圧力鍋のプレゼントを──。
「──奉仕レベルが足りないな、って」
「──ヘイ、ゼロ太郎。カワイがなにを言っているのか翻訳して?」
うまくいかない! なんだ『奉仕レベル』って!
疑問は、疑問のまま。結局のところ、圧力鍋は買わないという方向で話が進んだ。そして、なぜかカワイに赦してもらえた。
……えっ、本当になにも分からない。残ったのは、俺の中で芽生えた多方面に対する疑問符だけだった。
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