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とにもかくにも、無事に解決だ。俺はカワイお手製の晩ご飯を嬉々として食べながら、収まった騒動に安堵していた。
ちなみに、本日のメインディッシュは豆腐と茄子を甘辛く和えたもの。しかし、麻婆茄子ではない。カワイ曰く……。
『今日のご飯は、エビチリ風』
らしい。確認のために『麻婆茄子じゃないの?』と訊いたら、クールな表情で『エビチリ風』とだけ返された。こだわりらしい。
なんにせよ、おいしいという事実はハッキリしている。甘いものはあまり好きじゃない俺でも、料理という意味での甘さは好きだ。甘辛いエビチリなんて、とてもお酒が進むじゃないか。
「はぁ~っ。一時はどうなっちゃうかと思ったけど、ヤッパリ今日も幸せだなぁ~っ」
「ヒトが幸せそうにご飯を食べてくれると、ボクも幸せ」
「俺もカワイが幸せそうに過ごしてくれていると、幸せになれちゃうよ!」
「そっか。じゃあ、ボクたちの幸せはエコだね」
エコ、だとっ? カワイ、また人間界に馴染んだ単語を遣ってきたぞ。でも、ほんのりドヤ顔のカワイが可愛い!
のほほん、ほわほわ。俺たちは幸せを享受しながら、晩ご飯を食べ終えた。
それから片付けをして、なにかを手伝おうと思い意気揚々と腕まくりをして。なぜかカワイに「ヒトはソファでまったりするのが仕事」と言われ、流し台から追い出され……。
うぅ~ん、そっか。俺はソファでまったりするのが仕事なのかぁ。腕まくりを直しつつ、俺はどこか釈然としない気持ちのままソファに座った。
仕方がない。こうなったら、カワイの指示に従おう。俺はなんのけなしに、ピッとテレビの画面をリモコン操作で点けてみた。
普段からテレビ番組を見ているタイプではないので、目的があるわけではない。それでもテレビを点けたのは、頭の片隅に『カワイが喜ぶかも』という考えがあったからだろう。カワイは好奇心旺盛だから、どんな番組にも基本的には興味を持ってくれる。
……そう。【基本的には】だ。分かっていたはずなのに、この後の俺はそれを失念してしまった。
最初に映し出されたのは、可愛い動物の映像だ。子犬が飼い主との散歩中、やけにグルグルと回転しながら前に進んでいる。きっと、お散歩が嬉しくて仕方がないのだろう。微笑ましい。
それからも、動物の映像は続く。どうやらこれは、ネット上に投稿された動物やペットの微笑ましい動画を集めた番組のようだ。なかなか癒されるじゃないか。俺は表情筋を緩めながら、テレビをジッと眺めた。
人生で一度もペットを飼ったことはなかったけど、ヤッパリ可愛いものは可愛い。カワイが『飼いたい』と言ったら超前向きに検討するくらい、俺は動物が好きだ。
いいじゃないか、動物。小さくて、コロコロッとしていて。癒しの塊だ。
……なんてことを考えていたせいで、俺の頭は随分とゆるゆるな思考回路に陥っていたらしい。
「動物の番組だ」
「そうだよぉ~。一緒に見よう、隣においでっ」
洗い物を終わらせてくれたらしいカワイが近寄ってきたので、ソファの空いているスペースを勧める。可愛いカワイを隣に座らせた俺は、ゆるゆる思考のまま口を開いた。
そう……。
「──見てよ、カワイ! 次は【猫特集】だって! どの子も可愛いね~っ」
カワイの中にある地雷を、チュドンと踏み抜くと気付かずに。
可愛い動物に、可愛いカワイが隣にいる。俺の頭からは【危機感】やら【配慮】といった単語が欠落していた。
ゆえに、カワイの言動を予測できなかったのだ。
「──あれは動く毛玉」
「──いやそんなことないよ!」
いつも以上にクールと言うか、いっそ冷淡な口調。一言だけ言葉を零した後、カワイは黙り込む。
そのままカワイは、無言でテレビ画面を消したのだ。凄まじい怒気を、鈍い俺にも分かるくらい放出しながら。
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