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 つまり、カワイは怒っていないのだ。これもひとえに、カワイに対する日頃の行いが良いということ。 [なぜでしょう。言葉に、違和感が……] 「まぁまぁ」  ゼロ太郎を宥めつつ、しかし俺は正座のまま、カワイを見つめた。 「えっと。つまり俺は、責められているわけではないって話かな?」 「うん。責めてないよ」  と言うことは、カワイが俺に言ったのは言葉通りの意味で……。 「……んんっ? ところで、カワイが口にしたタイトルなんだけど。どうして、あのふたつを厳選して比較したの?」 「それは……」  自慢ではないが、俺が収集したフワ~オッな作品数は三桁を超える。その中でカワイが気にしたのは、おそらくなにかしらの基準を満たした二作品だ。  その選定基準は、いかに。俺が訊ねると、カワイはスッと立ち上がってしまった。  ゆえに……。 「──一番、キャラクターがボクに近そう、だったから。……だけど」  カワイが立ち上がったことにより、俺とカワイに距離ができた。分かり易く言うのなら、カワイがポソポソと呟いた【答え】が俺にはうまく聞き取れなかったのだ。 「えっ? カワイ、なんて言ったの?」 「……ヒミツ」 「秘密かぁ~」  俺に背を向けたカワイが、今度はハッキリと答えたぞ。尻尾が左右に振れていたけど、カワイに『ヒミツ』と言われてしまっては、その理由が分からなかった。  カワイは俺を振り返り、俺に手を伸ばす。おそらく『ボクの手を掴んでいいから、そろそろ正座はやめてほしいな』という意味だろう。優しい、好きだ。俺はすぐに、カワイの手を握った。  すると、カワイはもう一度小首を傾げる。 「ボクからも質問。ヒトはマンガが好きなのに、どうして紙では置いてないの?」 「そうだねぇ。電子派になったから、紙では置いてないよ」 「どうして電子派になったの? 場所を取られないから?」 「あー……。それも、あるんだけど……」  いつもならゼロ太郎がすかさず理由を明かすのに、それがない。ということは、ゼロ太郎はこう思っているのだ。……『自分の口で明かしなさい』と。  俺は再度、その場で正座をする。 「──俺って、掃除できないでしょ? それで、ね……」 「──ごめんね、もうこの話は終わりにしよう」  うぅ~っ、カワイは優しいなぁ~っ。ゼロ太郎は頭上で[甘やかさないでください]とか言っているのに、カワイは優しい。  俺は、掃除ができない。しかし、作品に対する愛はある。  ゆえに俺は、紙で本を置かない。置いたら最後、俺は俺を赦せないからだ。  ……『ちゃんと掃除をすればいいだろ』って? できる人にはできない人の気持ちが分からないんだようっ!  掃除ってさ、もうなんて言うのかな。自然現象とか、天災とか、そういう括りの事柄なんだよ。俺一人がどうこうできる範囲を超えているって言うのかな? つまり、そういう話なんだよ! 「ヒト、静かに泣いちゃった」 [主様は感受性が非常に豊かな方なので、突然この世を憂うのです] 「そうなんだ。それは大変だね」  なんだかあらぬ誤解を受けているけれど、俺はなにも言えなかった。己の無力さを、文字通り噛み締めていたのだから。

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