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 翌日は、ヒトの休日。だからヒトは、しっかりバッチリ爆睡中。  いつもと同じ時間に起きたボクは、ゼロタローと一緒に冷蔵庫の中を見て、ある重大なことに気付いた。 「材料、余っちゃったね」 [そうですね]  チーズケーキ生活、突然の終止符。だけどホントに突然だったから、明日も続くと思って買っておいた材料たち。  冷蔵庫の中でチョコンと鎮座するそれらを見て、ボクたちは一旦、冷蔵庫の扉を閉めた。 「どうしよう。なにか別の料理に使おうかな」 [そうしましょう。残っている材料と本日のスーパーでの特売品を合わせて、今晩の料理に適したレシピを検索しますね] 「でもボク、今日もケーキ食べたい。昨日が最後だって思ってなかったから、まだケーキとお別れできてない」 [作りましょうか、おいしいケーキ]  えっ、いいのかな。でもゼロタロー、ダメなときはちゃんと『ダメ』って言ってくれるし……。……いい、みたい。  だけど、今日でちゃんと最後にしなくちゃ。次に作るのは、またいつか。ボクはすっかり慣れてきたチーズケーキ作りをゼロタローに教わりながら、テキパキと作業を始める。  そして迎えた、ヒトの起床時間。つまり、お昼過ぎ。 「──材料が余っちゃったから作ったけど、これでホントに最後。ウーロン茶とバナナのチーズケーキだよ」 「──混ぜたのっ?」  寝癖ピョンピョンなヒトが、大きな反応を返した。 「でも、気になる組み合わせだね! それに、おいしそうな匂い!」 「一緒に、ウーロン茶のミルクティーも飲んでほしい」 「おぉ~っ、おっしゃれ~っ!」  いっぱい眠った休みのヒトは、いつもより寝起きが元気。少し変わったデザインの寝間着に身を包んだまま、ヒトはイスに座ってくれた。 「あのね、ヒト。ケーキ、毎日作っちゃってホントにごめんね。ヒトの健康、全然気遣えてなかった」 「いやいや! 俺だって毎日嬉しく食べてたんだから、そんなにかしこまらないで!」 「でもボク、配慮が足りなかった。ヒトが喜んでくれて、嬉しくて、張り切っちゃった」 「カワイ……」  フォークを渡してから、ボクはヒトを見る。ヒトもボクを見ていてくれたから、すぐにボクたちは目が合った。  だからボクは、思わず目を逸らして……。 「──あと、ボクは甘い物が好き。だから『毎日甘い物が食べられる』って下心もあったり、なかったり……」 「──そんなちゃっかりさんなところも好きだよ」  ヒトに、懺悔した。ポソポソッて、小さな声で。  ……ちなみに、その後。チーズケーキを食べながら、ボクはピコンと閃いていた。 「ケーキはケーキでも、野菜を入れたらセーフ? 例えば……ニンジンのケーキ、とか」 「なるほど、キャロットケーキかぁ~。うぅ~ん……」  ヒトはケーキを食べながら、腕を組む。そして、小首を傾げながら答えてくれた。 「──セウトかな」 [──どっちなのですか]  どうにか、健康的に甘い物を食べる方法は無いのかなって。ボクは真剣に、そんなことを考えてしまった。  ……反省は、モチロンしてる。してるけど、甘い物に罪は無いから。人間界はおいしいものが沢山だから、仕方がないよね。チーズケーキの出来に満足しながら、ボクは心の中でウンウンと自分を肯定した。 8.5章【未熟な悪魔と甘い時間です】 了

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