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 ヒトに喜んでもらえると、すごく嬉しい。ヒトに褒めてもらえるのも嬉しいけど、ボクはヤッパリ、ヒトが喜んでいるところを見るのが一番嬉しいみたい。  ……だから、少し調子に乗っちゃったんだと思う。  チーズケーキを焼くと、ヒトは喜んでくれた。ボクは大好きな甘い物を大好きなヒトと毎日共有できて、すごく浮かれちゃっていたと思う。  毎日、すっごく幸せ。ヒトも同じ気持ちなんだって思っちゃうくらい、幸せいっぱいだった。  それから、数日間。ボクは色々なチーズケーキの作り方をゼロタローに教わった。試行錯誤を繰り返して、毎日毎日チーズケーキを作り続けたんだ。  それが、結果的に……。 「──あー、のね、カワイ。毎日チーズケーキを焼いてくれるのは、すっごく贅沢で本当に本当に嬉しいんだけど……さすがに申し訳ない、かな」  ヒトの表情を曇らせちゃうなんて、気付かないまま。  ガガンと、ショックを受けてしまう。まさか飽きちゃったのかな、なんて。そんな的外れなことを考えながら。 「毎日本当にすっごくおいしかったよ! 本当に、これからも毎日食べ続けたいくらいだよ!」  だけどすぐに、ヒトはボクが抱いた不安を払拭してくれた。ヒトはこういうところで気遣い所以のウソを吐かない。だから、これは本心の本音。  じゃあ、なにがいけなかったんだろう。ボクはヒトの気持ちになって、真剣に考える。  ……ヒトは、優しい男。だからもしかして、ボクとゼロタローの手間を考えてくれている……の、かな。そんな予測を立てて、ボクはすぐにヒトの気遣いと心配を払拭しようとした。 「ボクのことは気にしなくて大丈夫だよ。作るの、楽しい」 「それはなにより、なんだけど……。あと、えーっとね……」  どうやら、違ったみたい。それじゃあいったい、ヒトはなにを気にしているんだろう。  材料費は、大丈夫。ボクがゼロタローに教わりながらパソコンでしている仕事の収入を使っているから、ヒトにメーワクはかかっていないはず。だけど考えてみると、ヒトはそれを知らないかも。  ヒトが恐縮している理由に目星をつけて、再度ボクは口を開こうとする。  だけどその前に、ヒトが【ホントの理由】を打ち明けてくれた。 「──太っちゃう、かな」 「──っ!」  それは、困る。すごくすごく、困っちゃう。  人間は太りすぎると、病気になる。ヒトは悪魔と人間の混血だけど、それでも【人間】であることに間違いはない。だから、太るとヒトの体が心配。  確か、人間界で体重の話はとってもデリケート。だからヒトは、ボクに打ち明けられなかったんだ。  こんな簡単なことにも気付けないなんて、ボクはヒトの(つがい)失格かもしれない。自分が悪いと分かっていながらも、ボクはシュンと落ち込んでしまった。 「ごめんね、ヒト。毎日ヒトに褒められて嬉しかったけど、ヒトの健康はすごく大切。だから、これからは控えるね……」 「あっ、や、落ち込まないでっ! 嫌だったわけじゃないからっ! ねっ?」  ヒト、優しい。ダメなボクに、今も気を遣ってくれた。  人間の体は、脆弱──じゃなくて、えっと。……そう、デリケート。繊細だから、気を付けなくちゃ。ボクはしっかりとそう認識して、決意を固めた。  ……ちなみに、その後。 [ごめんなさい、カワイ君。分かってはいたのですが、お二人の幸せそうな顔を見てしまうと……私には、とても]  ゼロタローにも気を遣わせてしまっていたのだと、ボクは気付いたのだった。  ヒトもゼロタローも、すごく優しい。ボクは『ゼロタローに実体があったら抱き締めたい』って衝動に駆られながら、だけど縮こまって「気付けなくてごめんね」と謝った。  教訓。甘い物は、甘くない。……なんだか、すごく深いことに気付けた気がする。

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