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魔力の、枯渇。俺が不定期に陥る【不調】と、よく似ている気がしてならなかった。
「カワイ!」
ベッドに倒れ込んだカワイに駆け寄り、俺はカワイの頬や額に触れる。手のひらから伝わるカワイの体温は、ほんのりと高いように感じた。
ピクリと、カワイの体が震える。それからカワイは潤んだ瞳を俺に向けて、言葉を紡いだ。
「ごめんなさい、ヒト。今日のご飯、まだ用意できてなくて……」
「俺のことより自分のことを考えてよ! なんで……いつからっ。いったいいつからこんな……!」
俺の場合、魔力を渇望する【不調】はジワジワとやってくる。初めはまるで、人間の風邪と同じような症状が出るのだ。
きっとカワイだって、同じだったはず。だけどカワイはずっと、俺に悟らせないように振る舞ってくれていたんだ。
理由なんて、問い質すまでもない。俺に心配をかけさせないためだ。……だからこそ俺は、自分自身が情けなくて仕方がない。
「……ヒト」
「なにっ? どうしたの、カワイっ?」
名前を呼ばれて、ハッとする。なぜなら……。
「そんな顔、しないで。ヒトのそんな顔、ボクは見たくないよ」
こんな時でさえ、カワイの気持ちを全然分かっていないのだから。
……なにをやっているんだ、俺は。今すべきことくらい、ちゃんと理解しろよ。
今、俺がすべきこと。それは【己を責めること】なんかじゃないだろ。
目の前のカワイを、大切にする。そんなの、分かり切っている話じゃないか。
「……ごめん、カワイ。今ちょっと、俺の良くないところが出ちゃってた」
深呼吸をした後、俺はカワイに向き合った。
「気分は?」
「悪くないよ」
「じゃあ、具合は?」
「頭が少し、ぽやっとする。だから、体が少し言うことを聞かない」
訊ねた分だけ、素直な答えが返ってくる。ベッドに横たわったカワイは、不思議と【いつも通り】にさえ見えた。
だけど、俺は分かっている。俺だってつい先日、同じ状態になっていたんだから。
「ちょっと待っててね。食べ物、なにか用意するから」
先ずは、食べ物だ。空気中の魔力濃度ってやつが魔界より低いこの人間界じゃ、食事でしか魔力補給ができないのだから。
しかし、カワイの返事は予想外のものだった。
「あのね、ヒト。今のボクは、前のヒトとは違うよ」
「……一応確認するけど、それって強がり?」
「ううん、真実。本音だよ」
どうなんだろう。本当に、まるっと信じていいのだろうか。
「だけどカワイ、行き倒れてたことあったよね?」
「うん。だから分かるんだよ。今のボクは、平気」
ベッドに横たわって、尻尾が元気なく垂れている様子を見ると……にわかには信じられない、かな。
それでも、カワイ本人の主張を百パーセント無視もできない。
「だとしても、なにか食べないとだよね。ご飯をしっかり食べて、ぐっすり寝る。体調不良なら、これが一番だよ」
「それは……そう、だね。一理ある」
カワイはそう言って、俺の方に両腕を伸ばした。
「作り置きのおかずがあるから、教える。ボクのこと、冷蔵庫の前まで連れて行って」
「勿論いいけど……でもそれって、ゼロ太郎に訊いたら分かるんじゃない?」
「──じゃあ、言い方を変える。ヒトに抱っこされて運搬されたい」
「──喜んで!」
って、あれれっ? なんだか、いつものペースになっているような? 俺は戸惑いを抱きつつも、カワイからの可愛いお願いを叶えたのだった。
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