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 就寝準備を終えてから、寝室にて。 「ヒト、一緒に寝転がってもいい?」 「ウェルカムですが?」 「やった」  俺とカワイは、そんなやり取りをしていた。  俺は毛布を捲り、自分の隣をポンポンと叩いてカワイを呼ぶ。カワイはスリッパを鳴らしながら歩いて、ベッドにストンと腰掛けた。 「珍しいね。いつもは隣にすぐ寝転がってくれるのに」 「うん、なんでだろう。ちゃんと確認して、ヒトの口から『いいよ』って言われたくなった……の、かも」  カワイ自身も不可解な動機、ってことかな? なんにせよ、嫌なことでも悪いことでもないのでウェルカムだ。だって、可愛いからね。  スリッパを脱いだカワイは、俺の隣に寝転がる。それからジッと、俺の顔を見つめてきた。 「ねぇ、ヒト」 「うん? どうかした?」  俺が返事をすると、カワイは柔らかい笑顔を浮かべる。 「大好き。これからも、ずっとずっと一緒にいてね」 「嬉しいけど、突然どうしたの? 甘えたさんかな?」 「そうかも。なんだか、伝えたくなったみたい」  なるほどなるほど。これも不可解な動機ってことかな?  俺は一度「そうなんだね」と言ってから、カワイに笑みを返した。 「勿論だよっ。それと、俺もカワイが大好きだよっ」 「じゃあ、ヒト。今の気持ちは?」 「えっ?」 [四字熟語でどうぞ] 「えっ、ちょっ、唐突にハードル上げてきたね?」  話の脈絡なんて全く無かったけど、二人に強請られたのだから考えよう。ポク、ポク……チーン。 「……賛否両論?」 [【否】はなかったでしょう] 「じゃあ、喜色満面!」 「嬉しい」  なんにせよ、カワイが元気になってくれて良かった。こういう他愛のない会話も、嬉しくて楽しくて仕方がない。  なんだか照れくさくて、ハッキリと言葉にはできなかったけど……うん。俺もずっと、ずっとずっと、カワイと一緒にいたいな。  ……本当に、心から。俺はずっと、カワイと一緒にいたいんだ。  * * *  そんな会話をして、そんな気持ちを抱いた直後なのに。まるで俺たちのやり取りが、なにかしらの伏線やフラグだったかのような展開が起こった。 「──×××」  それは、人間界では聞き取れない発音。外を歩くカワイを呼び止めたのは、俺にもゼロ太郎にも認識できない言葉だった。  俺はいつものように、会社へ出勤。カワイはこの日、いつものようにゴミを捨てようと外に出たばかりのところだった。  そんなカワイを呼び止めたのは、一人の男。だけど、俺もゼロ太郎も面識がない人物だった。  ……否。 「──アナタを【人間界への不正渡航罪】により、魔界裁判所へ強制連行します」  ──カワイを呼び止めたのは、一人の【悪魔】だったのだ。  それから、数秒後。俺は、カワイのことを【なにも知らなかった】と痛感させられた。 「あれっ? ゼロ太郎からメッセージだ。珍しい」  呑気にそう呟いた俺は、想像もしていなかった真実に愕然とするしかなかったのだ。  ──カワイが、魔界に連れ去られた。カワイは人間界に不正渡航していたのだ、と。俺のスマホに、ゼロ太郎からそんなメッセージが届いたことによって。 10章【未熟な社畜は知りませんでした】 了

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