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 その日の夜は、ちょっとしたお料理教室が開催された。理由は、今回の俺があまりにも不甲斐なかったからだ。  と言うわけで、俺は今朝と同じく調理をするカワイを眺める。カワイは俺に見守られながら、豆腐とニラを少し小さめに切り終えたところだ。  水とめんつゆを煮立たせた鍋に、切った豆腐とニラを投入。それからカワイは、ニラがしんなりしてきたところで溶いた卵を鍋に入れて……。 「お豆腐とニラの卵とじ、完成」 「すごい! 魔法みたい!」 [料理です]  俺の心をガッシリと掴んだのであった。拍手喝采だ。ゼロ太郎の言葉はスルーさせていただこう。 「いやぁ~、カワイとゼロ太郎はすごいねっ! 二人共パパッて作るから、なんだかすごく簡単な作業なのかなって勘違いしちゃいそうだよ!」 「うん。だって、実際すごく簡単な調理工程──」 [──カワイ君。主様のことを愛しているのでしたら、どうかそれ以上はおやめください]  えっ、あれっ? 珍しく、ゼロ太郎が俺に気を遣った? 気がするぞ? それでいて駄目押しのように、カワイがニッコリと笑っている。珍しい、これは非常に珍しい。カワイがこんなにハッキリと笑顔を浮かべるなんて、珍しいにもほどがある!  ……ま、まぁ、この話はやめよう。俺はカワイが作った料理を後ろから眺める。  豆腐入りの、ふわふわ唐揚げ。これは俺が説明を求めようとしたら『うん、今度ね』とカワイに言われた料理だ。おそらく、卵とじよりも難しい料理なのだろう。深入りはしないぞ、勿論さ。 「豆腐が入っているという事実だけで、罪悪感無く唐揚げが食べられる。これは、すごくすごい料理だよね……」 「食べるだけなのに、罪悪感? ヒトは繊細なんだね」  違うよ、そういう意味じゃないんだよ。なんだか変な誤解をさせてしまった気がするけど、巧く弁明できそうにないや。  とにもかくにも、晩ご飯の時間だ。俺はカワイと一緒に、カワイとゼロ太郎が作ってくれた料理を食卓テーブルに運ぶ。 「少し考えたんだけど、これからは俺も夕食に一品なにか作ろうかなって思ったんだ。カワイの意見はどうかな?」 「そんなことしなくても大丈夫だよ。だって、家事はボクの領分だから。ヒトの領分は会社に行って仕事をすることだよ」 「でも、一緒に暮らすうえで家事を全部任せるのはヤッパリ申し訳ないよ。それに、いざって時になにもできないのは情けないし……」 「大丈夫。今度からは、エッチな気持ちになったらヒトを誘う」 「あッ、えっ。……あ、はい」 [赤面しながら論破されないでください]  だってこんなこと言われたらなにも言えないじゃん! ゼロ太郎の意地悪!  あっさりと意見を封じられた俺に、カワイは言葉を続ける。 「魔力が足りなくて体調を崩した時は、ご飯を出前で取ろう? それに、そんな時のために作り置きしてある料理は沢山あるから、ヒトはそれを温めてくれたらいい」 「うぅ~ん、腑に落ちない……。俺ってそんなに信用無い?」  すると、カワイは首を横に振った。そして──。 「──ボクが調子を崩している時は、家事をしてほしいわけじゃない。ヒトには、ボクのそばにいてほしい。……それだけだよ」 「──あぎゅあッ!」  俺の人生史上ナンバーワンってくらい意味の分からない呻き声を上げさせられてしまった。いや、あの……よく俺、持っていた食器を落とさなかったよね。  ……教訓且つ、結論。カワイには、敵いません。

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