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第15話 明日覚えてろよ② @あおさん
「やりたいんじゃない、食いたいんだよ」
待て待て待て、近づいて来るりょうの体を止めるために胸を押す腕に力を込める。
流されるわけにはいかない。
あの日のように面白半分で流されたら、ヤバい。
「あおさん」
鼻先数センチ、りょうが言った。
「手」
「りょう、本当に」
「手、どこ」
いつもより低音で熱い声が耳に流れる。
肉食獣が獲物を前に見せる獰猛さと支配者の有無を言わさないオーラ。
普段どちらかというと物柔らかな雰囲気を放つ年下の恋人とは正反対のそれに心臓が五月蝿いくらいに鼓動する。
ヤバい。
ヤバいんだ。
つい、言うことを聞きたくなってしまう。
腹を見せて服従を示したくなってしまう。
「あおさん」
あぁ、ダメだ。
だって。
「手」
声が熱い。
視線が、熱い。
りょうの胸につけていた手を離す。
ゆっくりと頭上に上げて、シーツを掴むと酔っ払いは満足げに口角を上げて微笑んだ。
痛いと痛くないの間、肌の表面をりょうが噛んでいく。
指の先から指の先まで。
大きく少しだけ荒れた手で撫でられ、舌がゆっくりと這う。
味わうように舐めては噛んで、噛んでは撫でて。
腹側を食い尽くすと、腰を掴まれ身を転がされ、うつ伏せにされる。
そしてまた上から下まで、同じように歯を立てられる。
なのに、直接的な快楽に繋がる部分には一切触れないから、ジュクジュクと欲だけがつのっていく。
シーツに押しつけた中心部分からは透明な液体がテラテラと流れて。
イきたい。
全て、吐き出してしまいたい。
それだけに思考が囚われてりょうの名前を呼んだ。
「りょう、もう、むり……」
ふと、立てられていた歯が離れた。
ツーッと肩を撫でられ、ゆっくりとりょうを見る。
目が合って、りょうが少し体をずらした。
体勢を仰向けに戻すと、りょうが笑いながら舌なめずりをした。
「うまそう」
言った捕食者が赤い舌を見せた。
「舌出しな」
言われるがまま、舌を伸ばす。
ここまできて更に焦らすように近づいてきたりょうの舌先が俺の舌に絡みつく。
ジュッと音立てて舌を吸われ、背筋に快楽が走った。
「ん、」
漏らした声にりょうが目を細め、口内を長い舌が舐めた。
部屋にチュクチュクと淫猥な音だけが響いている。
刺激を求め腰が浮く。
洋服を着たままのりょうの股間に押しつけて見せると、りょうが口を離した。
「すげぇエロい」
片頬だけをあげたりょうが上体を起こし俺に跨る形でフーディを脱いだ。
薄らと割れた腹筋に汗が光る。
それに手を伸ばす。
触れるか触れないかのぎりぎりを指で撫でれば、りょうが俺に覆いかぶさった。
「全部食っていい?」
耳に直接音が響く。
「いい、から」
はやく、を口にしたところで全体重がのし掛かる。
嫌な予感を前に酔っ払いの背を叩くも返事はなかった。
「……くっそがきがぁぁっぁぁぁっぁっ!」
おい!起きろよ!ふざけんな!どうすんだよ!おい!こら!べしべしと叩きツネってみてもびくりともしない。
前回もそうだった!
前回もそうだった!!
腹に欲だけを溜めるだけ溜めていざというところで突然に寝落ちた。
すっかり火のついた体を鎮めるべく致し方なく自分でしたはいいものの、すっかり恋人の手に慣らされたそこは自分の手で満足することなく惰性的に吐き出された物を前に虚しさを覚えて。
だから嫌だったんだ。だから嫌だって言ったんだ。
なのに、なのに。
「くそがきがぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁおぼえてろよぉぉぉぉぉ」
地を這ったその咆哮に俺の上の肉食獣が「がふっ」と寝息を立てた。
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