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第2話
放課後になり、途中でコンビニに寄りお菓子と飲み物を買って桐ケ谷の家に向かった。
学校の最寄駅から一駅離れた所に住んでいる。
駅からは割と近くて便利そうだなと思う。
「ここだよ」
「お邪魔しまーす…」
玄関の扉を桐ケ谷が開けてそれに続いて入る。
中に入ると右側には家族写真が飾られていた。幸せそうに笑っている様子を見ると仲の良さが伝わってきてこっちも自然と笑みが溢れる。
階段から足跡が聞こえてきて目を向けると小さな男の子が立っていた。
「にいちゃん、おかえりー!」
「ただいまー」
とたとたと、こちらに駆け寄ってきた。
「弟の颯眞」
「こんにちは、佐藤優樹です。よろしくね」
「きりがやそうまです!6歳です、よろしくお願いします!」
礼儀正しい子で自分がこのくらいの年齢の時は堂々と挨拶は出来なかったように思う。
幼いながらも桐ケ谷に面影を感じて小さい頃はこんな感じだったのかなと彷彿とさせた。
「ゆうきくん、ゲームしよー!」
「ダメ、優樹くんは俺と映画を見るの、その後ね」
「え〜…絶対だからね!」
颯眞くんと別れて2階の桐ケ谷の部屋に向かった。
「颯眞くん元気な子だなー」
「最近、生意気になってきたけどね」
口ではそう言うものの、さっきの玄関でのやり取りを見るに仲の良い兄弟という感じがした。
あと、颯眞くんに吊られて言ったのかもしれないが下の名前で呼ばれた時少しドキっとしてしまった。
◇◇◇
「ここ俺の部屋、適当に座ってて良いよ、ちょっと用事思い出したから待っててくれる?すぐ戻ってくる」
「分かった」
机も無駄なものがなくて、本は整理整頓され、清潔感のある掃除が行き届いた綺麗な部屋だった。
しかもめっちゃ良い匂いがする。
イケメンって匂いまで良いのか…
言われた通り、座ってジロジロ見るのは申し訳なくて桐ケ谷が来るまでスマホをいじっていた。
「お待たせーじゃ、早速映画見るか 多分、佐藤気に入ると思うんだよねー」
「マジ?めっちゃ楽しみ」
◇◇◇
「あー、面白かった〜後半めっちゃ笑った」
「分かる、後半から畳み掛けてくるよな」
桐ケ谷の勧めてくれた映画は当たりで俺はすっかりハマってしまった。
映画の話で盛り上がっていると扉からノックの音が聞こえてきた。
ガチャリと開くと顔を少し出した。
「初めまして〜、晶太の母です
夕飯出来たんだけど良かったらお友達も食べていかない?」
「あ、初めまして佐藤優樹です。お邪魔してます!…え、でもそれは申し訳ないというか…」
「時間平気なら食べていく?…でも無理にとは言わないよ、全然断っても大丈夫」
桐ケ谷が気を使ってこそっと小さな声で囁く。
「…では、お言葉に甘えて夕飯ご馳走になります」
「はーい♪」
パタンと扉が閉まり、パタパタと階段を下る音が遠のいた。
「…無理やりっていうか、母さんが引き留めてごめん」
「全然!こっちこそ夕飯、ありがとう…なんか桐ケ谷のお母さんと桐ケ谷って雰囲気似てるね」
「あー…それ結構言われるんだよなぁ、自分じゃ分からないけど笑」
「顔とか全体の雰囲気かな?」
「へぇーそういうものなのか…」
話しながら階段を降りると夕飯の匂いに吊られて腹の虫が鳴った。
◇◇◇
「優樹くん、遠慮しないで食べてね〜」
「あ、はい。いただきます!」
食卓に並べられた品数が多くてどれに手をつけて良いか迷ったが、一人一つずつあるパスタから貰った。
「すごく美味しいです!」
「わぁ〜!良かった〜沢山食べてね」
ふわりと笑う笑顔が桐ケ谷とそっくりで、俺も笑顔になった。
同じ食べ物でもやっぱり家庭によって味が全然違う。
本格的なパスタの味がしてすごく美味しい。
「二人は同じクラスなの?」
「はい、俺勉強苦手なんですけど桐ケ谷くんによく教えてもらってるんです」
「そうなんだ〜!…晶太勉強教えてるの?あの晶太が?!」
「母さん!もう良いから!」
「おにいちゃんね、前ね耳にいっぱいキラキラしたもの付けてたんだよ〜」
「颯眞、唐揚げ好きだよな?兄ちゃんのやるよ(訳:少し黙ろうか)」
「やった〜、ありがとう〜」
あの?あのって何だろう?それに颯眞くんの言葉も…桐ケ谷は何か隠したがってるし聞いちゃまずい気がしてそれ以上は聞かなかった。
夕飯を食べ終わり、颯眞くんと約束していたゲームを三人でして久しぶりに人とゲームをしてすごく楽しかった。
「ゆうきくん!もう一回やろ!次は勝つ!」
ゲームが久しぶりだったこともあり思いの外白熱して盛り上がった。あと桐ケ谷はゲームも強くて、颯眞くんに強すぎるからやらないでと言われていたのがちょっと面白かった。
「俺もしたいけど、そろそろ帰らないと…」
「あ、そうか…もうこんな時間か、駅まで送るよ」
「ありがとう」
立ち上がって身支度をしていると小雨が次第に大雨になり風もすごく強く吹いているようだった。
「雨も風も強いな…」
桐ケ谷がテレビをつけると関東を中心に大雨警報が出ている。
「困ったな…」
「佐藤、泊まってく?明日、休みだしちょうど良いじゃん」
「え、いやいやそれは申し訳ないよ!夕飯もご馳走になったしそれ以上は」
「ゆうきくん、お泊まりするの?!」
「いやいや、颯眞くん泊まらないよ〜…」
そこへ桐ケ谷母がやってきて
「優樹くん、今外出るのは危険だし泊まっていくのはどうかな?」
そして極め付けは雷が鳴り、テレビを見ると木が倒れている映像が目に入った。
「…じゃあ、すみませんが一泊させてもらいます…」
「うん、その方がいいわ。親御さんに連絡してもらえるかな?」
「うち、親が夜勤勤めなんで大丈夫だと思うんですが連絡します」
「あ、そうなのね、うちにはいつでも来ていいからね!…あと、お風呂沸いてるから先入っていいよ!」
「すみません、ありがとうございます」
こうして俺は桐ケ谷家に一泊させてもらうことになった。
お風呂から上がって、桐ケ谷のジャージを借りたが案の定ブカブカだった。少し複雑な気持ちになって腕と袖を捲った。
ソファに颯眞くんが寝ていて、桐ケ谷と桐ケ谷母がテレビを見ていた。
「あ、お風呂ありがとうございました…颯眞くん寝ちゃったんだ」
「うん、一度寝ると起きないからね〜…私部屋に連れてくから晶太お風呂入って」
颯眞くんを抱えると2階へと上がっていった。
「分かった…佐藤、俺の部屋行ってもいいよ。布団敷いておいたから」
「いろいろと、ありがとう」
「気にしなくていいよ」
◇◇◇
桐ケ谷の部屋に行くと布団が敷いてあってそこに寝転んで今日あったことを思い返す。
桐ケ谷の家に初めて行って映画を見て、夕飯を食べて、颯眞くんと桐ケ谷とゲームして、泊まることになって…
いろいろあったけど楽しいな。
桐ケ谷家の人たちはみんないい人たちだなぁ。
ふと、横を見ると本棚があり倒れている本を見つけてそれが何故か気になって見たい衝動に駆られた。
桐ケ谷がいないのに見ていいか迷ったがほんの少し好奇心が勝ってしまった。
中学の卒業アルバムを手に取り1ページずつ開いていく。
ここに桐ケ谷が過ごした中学時代が詰まっていると思うと感慨深い。
「うわっ、懐かしー…中学の卒アルだ」
「うわぁああ!!!き、桐ケ谷!
ごごごごめん!勝手に見ちゃって」
「いや、いいよ 俺何回も声かけたんだけど…あまりにも真剣にみ、見てる、から…」
まるでイタズラが成功した子供のようなそんな顔で笑われて少し恥ずかしくなった。
風呂上がりの桐ケ谷の黒髪が電気で反射してキラリと光る。
「…佐藤にちょっと話があって」
「うん、何話って」
ちょっと卒アル貸してと言われ渡すとページを捲る。
「これ、俺ね」
「え!?」
赤く染めた髪、両耳にバチバチにつけたピアス。中学の頃の桐ケ谷がいた。
思わず写真と今を見比べてしまう。
でも今より少し幼いけど、それでも整っていてカッコいいなと思った。
「全然違うでしょ?…夕飯の時、母さんが勉強を教えてることびっくりしてたじゃん、中学の時勉強全然してなくて成績なんか下から数えた方が早かったんだよ、学校もほとんど行ってなくて不良グループに混ざって遊んだりしてたんだよね…まぁ、そうなったのも俺の父さんが厳しい人でさ勉強して良い学校に行け、良い会社に勤めろっていう考えの頑固な人で、中学に入った年に何もかもが嫌になって親に反抗して荒れまくってたんだ。でも中学2年の頃に父さんが癌になってかなり病気が進行してて…そのまま亡くなったんだ、その時俺と父さんの仲最悪だったから話なんか出来なかったし今、すごく後悔してる、亡くなってから気付くなんて本当バカだよな…だから、こんなことしてる場合じゃないって遊びも不良グループとも付き合わなくなって猛勉強して今の高校にやっと受かったんだ」
「そう、だったのか…」
通りで父親の話が出ないはずだ。
ここの家に来た時から違和感があったのはそこだったんだ。
「…幻滅した?今の俺と違いすぎるって、バカみたいって思うだろ?」
「思わないよ、幻滅もしない。中学時代の写真には少しびっくりしたけど今の桐ケ谷があるのはお父さんのこともあるし、何より努力したからじゃん!それって逃げずに苦手なことを克服できたってことでしょ?俺はめちゃくちゃすごいことだと思うそれに今俺に勉強教えてくれるのだってそれがあったからだよね?いつもありがとうって思ってる…教えてくれる人が桐ケ谷で良かったって俺も勉強頑張ろうって思うんだよ、だから、桐ケ谷は努力の天才で俺の大好きな人だよ」
「佐藤…」
肩に桐ケ谷の頭が乗っかりポツリとつぶやく。
「俺、佐藤と出会えて良かった……
今だけこうしてていい?」
肩に触れた少し温かい雫が触れるのを感じてじんわりと心が温かくなった。
◇◇◇
朝、目が覚めると部屋が明るくなっていてスマホを見ると午前7時過ぎくらいだった。窓を見ると昨日の大雨はどこにいったのか快晴が広がっている。横を見ると桐ケ谷はいなくてどこに行ったのだろうと思った。すると、扉から控えめなノックの音が聞こえた。
「…あ、おはよう 朝ごはん作ったんだけど食べる?」
「おはよう、ありがとうっ ごめん、手伝わなくて…着替えてから行くよ」
「気にしなくていいよ、下で待ってる」
着替えて下に向かうと、目玉焼き、味噌汁、ご飯のいい匂いが広がっていた。
「美味しそう〜」
「冷めないうちに食べよ」
「「いただきます」」
「美味しい!桐ケ谷、料理うまい!」
「マジで?良かった〜!」
目玉焼きの半熟具合が絶妙ですごく美味しい。桐ケ谷はやっぱり何でもできて器用だと思う。
「そういえば、桐ケ谷のお母さんと颯眞くんてどこに…」
「母さんは人手が足りなくて仕事行ったよ、颯眞は一応声はかけたけどまだ寝てる」
「そっか、朝早いんだな…まあ土日だしゆっくり寝れるよな…」
さっき思い出したことだが桐ケ谷が中学時代の話をしてくれた時、俺は励ましのつもりで俺の言葉で伝えたのだが、最後の言葉は余計だった気がする。「大好き」ってただの告白じゃん…桐ケ谷はそのことには何も触れてはこないけど、いや敢えてスルーしてるのかもしれないけど。
少し、桐ケ谷の顔が見づらい…
何で口走ってしまったのか…
いや、大好きって友達にも使うのか?友情的な意味で捉えてくれたら良いかも…?
今まで友達に言ったことなんてないから分からない。
桐ケ谷のことになるといつもの自分ではいられない。
「佐藤」
「!何」
そこまで吃驚することないのに、昨日の件で勝手に気まずくなってる。
箸を置いて桐ケ谷の方を向く。
「昨日、中学の頃の話した時引かないで聞いてくれてありがとう…すごい嬉しかった、父さんのことずっと後悔してて、自分のことを責めてきたし嫌いだったけど心が軽くなったよ。正直こんな重い話、誰にも出来なくてこれからもすることはないって思ってたけど、佐藤がいてくれて良かった…俺にとって佐藤は特別な人なんだって、大好きな人だなって思った。なので、付き合って下さい。お願いします」
「…本当に俺なんかで良いの?」
「もう、後悔はしたくない。佐藤が良い、佐藤じゃなきゃ意味がない」
「俺も、桐ケ谷が良いな…大好き」
こんなに美味しい朝食は初めてだ。
普通の食事量なのに胸がいっぱいになってお腹が満腹になった。
◇◇◇
「駅まで送るよ」
「ありがとう」
朝食を食べたあと、一緒に片付けをして少しゆっくりして桐ケ谷とこれからのことを話した。
家を出る前に桐ケ谷のお父さんの御仏壇にお参りさせてもらった。
一晩泊めてくれたこと、そして桐ケ谷との関係を心の中で話した。
やっぱり親子だなと、顔がよく似ている。
駅にもう着いてしまった。早いな、話をしていると楽しくてあっという間だった。
「泊めてくれてありがとう、お母さんと颯眞くんにもよろしく伝えといてくれる?」
「了解。あの、さ…いつでも来て良いから、佐藤の親夜勤勤めだろ?夜ご飯とかまた食べよう。俺も颯眞や母さんも喜ぶから」
「ありがとう…」
ちょっと来てと桐ケ谷に呼ばれ物陰になってる所で急にハグをされた。
「夜、電話していい?」
「うん、いいよ俺もしたい」
あぁ、離れ難いな。夜になれば電話できるのに。
もう行かなければ。
「あー…離したくない笑」
「同じ笑」
電車の時間が迫っていたが、どうしても早く帰らなければいけないことは無いためもう少し一緒にいた。
◇◇◇
改札に入り、電車に乗っていると窓の景色や、電車の広告が目に入り「恋人」「愛」などの言葉が目に入った。約一ヶ月くらい前、よく目にするようになってたけど、なるほど、そういうことか。
引き寄せって目には見えないけどあるのかもしれない。
夜、電話するの楽しみだな。何を話そう。早く夜にならないかなぁ…
あと泊めてもらったお礼をしよう。それで休み明けに渡そう。
気をつけないと笑みが溢れそうになる。
降りる駅まで数十分、想い人に思いを馳せながら電車に揺られた。
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