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第2話 はじめてのプレイ練習(4)★

 続きを促せば、犬飼は躊躇(ためら)うように目を泳がせたあと、やがて意を決したように口を開く。 「もっと命令してくれ……もっとたくさん、褒めて……ほしい」  その純粋なまでの懇願に、羽柴は思わず息を呑んだ。  切れ長の澄んだ瞳が、こちらをじっと見つめている。そこには期待の色がありありと浮かんでいて、羽柴のことを心地よく昂らせてくれるのだった。 「よく言えました。じゃあ、こんなのはどう? Roll(仰向け)」  互いにダイナミクスの本能に呑まれているのだろう。犬飼は何の抵抗も見せずにコマンドに従い、今度はこちらの膝を枕にして、寝そべってみせた。 「こう、で……いいのか?」  仰向けになって、犬のように手足を軽く曲げる。  今日の犬飼は、Tシャツにスウェットパンツというラフな部屋着を着ており、寝転んだ拍子にTシャツの裾がめくれてしまっていた。ちらりと覗いた脇腹はやはり細く、男にしてはしなやかだ。 「うん、お利口さんだね。ちゃんとお腹見せてくれてありがとう」  よしよし、と布地越しに腹を撫でてやると、犬飼が反射的に体を跳ねさせた。羽柴はすぐに手を止めて様子をうかがう。 「あ、ごめんね。嫌だった?」  その問いに、犬飼はふるふると首を横に振った。 「いや、少し驚いただけだ」 「本当? 我慢とかしてない?」 「大丈夫だ。むしろ、気持ちいい……から」  恥ずかしそうに視線を逸らしながらも、素直な言葉が返ってくる。  羽柴はホッと安堵の息をつくと、再び手を動かし始めた。 「素直でいい子。ご褒美にたくさん撫でてあげるね」  今度は大きな動作で、腹を撫でまわしていく。  犬飼はピクピクと体を震わせていたが、そのうち心地よさそうに声を漏らすようになった。気づけば下腹部のあたりが軽く盛り上がっていて、時折、内股を擦り合わせるようにしている。 「っ、は……ん」  本人は気づいていないのか、腹を撫でられることにすっかり夢中なようだ。  羽柴はあえて指摘することもなく、さらに大胆に手を動かすことにした。 (……嬉しい。本当に気持ちよくなってくれてるんだ)  もっとよくしてやりたい一心で、指先でへその穴をくりくりと弄ったり、脇腹をくすぐるように指先でなぞったりしてみる。  そのたびに犬飼はいじらしい反応を見せ、ついには物欲しげな目でこちらを見上げるのだった。 「は、羽柴……も、直接、触ってくれないか」  吐息混じりに言って、自らTシャツをたくし上げてみせる。  露わになった素肌はうっすらと汗をかいており、ほどよく引き締まった腹筋がさらなる色気を醸し出していた。  羽柴はどぎまぎとしながらも、微笑みを浮かべて手を伸ばす。 「おねだり上手だね。お腹、撫でられるの気持ちいい?」 「ん……ふっ」  腹筋の凹凸(おうとつ)を緩やかになぞれば、犬飼が小さく息を詰めるのが聞こえた。  羽柴は相手の反応をつぶさに観察しながら、徐々に動きを大きくしていく。  犬飼の肌は滑らかで、手のひらに吸いつくような感触が心地いい。何よりも、気持ちよさそうにしている姿を見ると、ますます満たされるものを感じてならなかった。 「蓮也、可愛い。とろんってしてる」 「そ、そんな」 「気持ちよくなってる顔、よく見せてごらん? Look(こっちを見て)」 「ぁ……」  命じられたとおりに、犬飼がこちらへ視線を向ける。  その表情は蕩けきっており、潤んだ瞳からは今にも涙がこぼれ落ちそうだ。頬は上気して赤く染まり、開きっぱなしの口から覗く舌がいやに艶めかしい。  身も心もすべて委ねてくれている――そんなSubを前にして、Domとしての本能が満たされないわけがない。 「いい子だね、すごく気持ちよさそう。蓮也が気持ちよくなってくれて、俺も嬉しいよ――」  そう告げたとき、犬飼の体が大きく波打った。  そのままビクビクと痙攣しだすと同時に、股のあたりからじわりと染みが広がっていくのを目にする。

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