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第2話 はじめてのプレイ練習(3)★

「あ――」  気を遣わせていると気づいた途端、自分が情けなくてどうしようもなくなった。歯痒い思いで、つい相手から視線をそらしてしまう。  そんな羽柴を見かねてか、犬飼が小さく息をついた。 「でかい図体のわりに、意気地なしだな」  やれやれとばかりに言ったかと思えば、頭を撫でていた羽柴の手を掴んでくる。そして、甘えるように頬擦りしたあと、ちろりと赤い舌を覗かせた。 「犬飼さんっ!?」 「どうだ? 犬っぽく振る舞われた方が、その気になるんじゃないのか?」  見せつけるようにして、舌をねっとりと這わせてくる犬飼。  その艶めかしさときたら、羽柴の心を鷲掴みにして離さない。生温かい舌が指の間を這うたび、言いようのない感覚が駆け抜けてゾクゾクとしてしまう。  思わず喉を鳴らせば、相手はどこか愉しげに口元を歪めてみせた。 「注意をひかせ、コマンドを伝え、指示どおりにできたら褒める。犬とのコミュニケーションと一緒だ――君ならできるだろ、羽柴」 「……っ!」  犬飼はまさしく、犬のように振る舞う。  普段の印象からは、まったく想像もつかない従順な姿。それを目にしているうちに、羽柴の中で欲望が渦巻くのを感じた。 「」  熱に浮かされたように名を呼べば、途端に犬飼が動きを止めた。もし犬と同様の耳が生えていたら、ピンと立てていたことだろう。 「Look(こっちを見て)」  今度は自分を指さし、ハンドシグナルとともにコマンドを告げる。そうして注意が向いたところで、すかさず膝を叩いた。 「そう――ここ、おいで? Sit(おすわり)」 「………………」  コマンドを受けた犬飼の体が、ゆっくりと動きだす。こちらの膝上に跨るようにして腰を下ろすと、自然と正面から向き合う形になった。  羽柴はその華奢な体を抱きしめつつ、耳元でそっと囁く。 「いい子だね、蓮也。言うこときいてくれてありがとう」  途端、腕の中の存在がピクッと震えたのがわかった。そのまま背中を撫でてやれば、やんわりと身を委ねてくる。 「……ん、くっ」  切なげに漏れる声。それに気づかないふりをして、羽柴は優しく体を撫で続けた。  背中から首、そして頭へ――そうやってスキンシップをはかっているうちにも、高揚感と多幸感が全身を満たしていく。もっと甘やかしてやりたいという欲求が込み上げてくる。 「羽柴……っ」  しばらくして、犬飼が頭をこてんと預けてきた。顔を覗き込めば、熱っぽく潤んだ瞳と視線がかち合う。 「す、すまない。もう少しリードしてやりたがったが」  犬飼はそう言って、羽柴のシャツを掴んでくる。  その手は小刻みに震えていて、ダイナミクスの本能を必死に堪えているであろうことが、容易にうかがえた。考えなくともわかる――プレイ未経験のこちらを配慮してくれたのだ。 (どうしよう。嬉しすぎる……だって、こんなになってまで)  相手の気遣いが嬉しくてたまらない。胸がきゅうっと締めつけられるのを感じながら、羽柴は抱きしめる腕の力を強める。 「ありがとう、俺のために頑張ってくれたんだね。Good boy(いい子)」  心からの言葉を紡げば、犬飼は大きく目を見開いて固まった。  色白な肌は、今や真っ赤に染まっていて――上司に対して抱く感情ではないのだろうが――ひどく愛らしく思えてならない。 「すごく嬉しいよ、蓮也。本当にいい子!」  頭を撫でてやりながら、何度も褒めたたえてやる。すると、犬飼がどこか夢見心地な様子で口を開いた。 「羽柴、もっと」 「うん?」 「――……」  口をもごもごとさせながらも、結局は俯いてしまう。  そのいたいけな仕草がまた愛らしく、羽柴はいたずらっぽく笑みを浮かべた。 「もっと、なに? 言いたいことがあるなら、教えてごらん――Say(言って)

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