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第4話 甘酸っぱいデートと波乱(1)

 週末を迎えたその日。羽柴は落ち着かない気持ちを抱えながら、犬飼との待ち合わせ場所へと向かった。  今日は約束どおり、二人で繁華街をぶらつくことになっている。犬飼と出かけるというだけで楽しみでならないし、できることならデートらしい雰囲気に持ち込んでみたいものだが――、 (って、俺のバカ! デートだなんて、考えからしておこがましいっ!)  ぶんぶんと首を横に振って、飛躍した考えを追い払う。  とはいえ、多少なりとも期待はしているわけで、近頃の羽柴といえば犬飼のことが愛おしく思えてならないのだ。  たとえば、ふとした瞬間に見せる隙のある表情だとか。あるいは、犬飼の方から歩み寄ってくれるようになったことだとか……。  意外な一面を目の当たりにしてときめくな、という方が無理な話だろう。  上司と部下という関係には変わりないが、仮パートナーになってから距離がぐんと縮まった気がする。鬼上司などと勝手なイメージを抱いていたのが、嘘のようだった。 (まあそれでも上司は上司なんだから、今日は失礼のないようにしないと。あー緊張してきたっ!)  そうこうしているうちに、待ち合わせ場所である駅前に到着する。  腕時計を確認すれば、ちょうど十分前の良い頃合いだった。  羽柴は胸を撫で下ろし、ソワソワとしながら周囲を見渡す。すると、ほどなくして見慣れたシルエットが目に入ったのだが――その身なりに目を(みは)ることになった。 「い、犬飼さん……!?」 「すまない、少し遅れてしまった」  犬飼が申し訳なさそうに頭を下げる。  だが、羽柴はそれどころではない。思わぬことに、犬飼はいつものスーツ姿でやって来たのだった。 「え、ええっと。もしかして、今日もお仕事で?」 「いや……何を着ていくべきか、迷ってだな」 (そんな漫画みたいなことする人、本当にいるんだ!?)  こちらはテーパードパンツに、カットソーとジャケット。そして、ストールを合わせたカジュアルなスタイルだというのに、これではちぐはぐだろう。  羽柴が内心驚きを隠せないでいると、犬飼は決まりが悪そうに目を逸らした。なにも責めているわけではないのに、ちょっと微笑ましく思えてしまう。 「犬飼さん、ちょっと失礼していいですか?」  そう告げるなり、羽柴は犬飼のジャケットへ手を伸ばした。前ボタンを外し、襟元のネクタイを解くと、自分が身に着けていたストールを代わりに巻きつける。 「……羽柴、これは」 「じゃーんっ、どうです? こうしたらカジュアルっぽくなるでしょ?」  淡いアイスブルーのストールが挿し色になっていて、なかなかいい感じだ。羽柴は自画自賛するかのように、得意げに笑ってみせる。  しかし一方で、犬飼は無言のままにストールの端を摘まむだけ。スマートな印象からして似合っていると思うのだが、もしや気に入らなかっただろうか。 「あの、犬飼さん?」 「………………」  不安になって顔色をうかがうと、心なしか頬が赤いように見える。  羽柴はクエスチョンマークを浮かべるばかりだったが、ややあってその理由を察した。

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