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第4話 甘酸っぱいデートと波乱(2)

(ん? なんかこれって……もしかしなくても《カラー》みたいになってる!?)  パートナー関係を結んだ際、一般的な習慣として、DomがSubに首輪(カラー)を贈ることになっている。今の状況は、まさにそれを連想させるもので、迂闊にもほどがあった。 「す、すみませんっ! 俺ってば何も考えずに!」  慌てて外そうとするも、制するように犬飼の手が遮ってきた。  犬飼はストールに顔を埋めると、気恥ずかしげに口を開く。 「……いい。しばらく借りる」  それだけ言うと、足早に歩きだしてしまった。羽柴は呆気に取られるも、すぐに我に返って後を追う。 (うう、初っ端からやってしまった!)  意図していなかったものの、気まずいことこの上ない。おかげで余計に緊張してしまうし、踏んだり蹴ったりだ。 「羽柴」 「はいっ!?」  不意に名を呼ばれ、とっさに羽柴は背筋を伸ばした。犬飼が足を止めて振り返る。 「言い忘れていた。……ありがとう」  眉根を寄せながらも、口には微かな笑みが浮かんでいた。  それを目にした途端、羽柴の中でじんわりと熱が広がっていくのがわかった。今度は満面の笑みを浮かべて、返事をしてみせる。 「っ、はい!」  そうして、早鐘を打つ心臓を服の上から押さえつつ、犬飼の隣へと並んだのだった。  休日の繁華街は人通りが多く、行き交う人々の足取りも軽い。それは羽柴らも同様で、こうして肩を並べているだけでも心が弾むようだった。 「なんだか、学生にでも戻った気分だ」  複合商業施設内にある映画館に入ると、犬飼が何気なく呟いた。羽柴はきょとんとして、犬飼の顔を見やる。 「犬飼さん、映画とか見ないんですか?」 「ああ。そもそもの話、休日に誰かと出かけるだなんて、もう何年ぶりかもわからん」  犬飼が苦笑しながら肩をすくめる。  まさかとは思うが、親しい間柄の人間もあまりいないのだろうか。――そうとなれば、もう居ても立っても居られなかった。 「じゃあ今日は、俺が犬飼さんをエスコートします!」  勢い込んで言えば、犬飼が驚いたように顔を上げる。  羽柴は努めて明るく振る舞いながら、壁面に飾られたポスターを指さした。 「ね、何か観たいのあります? 犬飼さんはどんなジャンルが好きですか?」  その問いかけに、犬飼は思案するように顎に手を当てた。 「強いて言えば、アクションだが――これなんてどうだ?」  そう言って、指し示したのは洋画のポスターだった。派手なアクションシーンが売りらしく、SNSなどでも話題沸騰中の作品だ。 「おーっ、さすが犬飼さん! センスいいっすね」 「センスも何も、最近よくCMで見かけていたからなんだが……」 「あははっ、実を言うと俺も気になってたんです。上映時間もちょうどいい感じだし、これにしましょうか?」  羽柴はさっそく券売機でチケットを購入し、犬飼に手渡した。  シアター内は座席の半分ほどが埋まっており、二人はジュースを片手に、後方の席へ腰を下ろす。やがて照明が落とされると、予告のあとにいよいよ本編が始まった。  スクリーンいっぱいに広がる映像美に、迫力あるシーンの数々――。  羽柴は映画の世界に引き込まれながらも、スクリーンに釘付けになっている犬飼の横顔を盗み見ては、こっそりと笑みをこぼすのだった。

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