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第4話 甘酸っぱいデートと波乱(3)

 映画館を後にした二人は、商業施設内のレストランで昼食をとることにした。  率直に言って、映画は期待どおりの良作だった。正統派なアクション映画ながらも、ミステリー要素も含まれていて、その見事な伏線回収に舌を巻いたものだ。  また、犬飼も同じ感想を抱いたらしい。食事中の話題はもっぱら映画に関してで、羽柴はなおさら嬉しくなった。 (せっかくなら、うんと楽しんでもらいたい……!)  食事を終えてレストランを出ると、食べ歩きをしたり、ゲームセンターに立ち寄ったりと街中を散策した。  そのどれもが新鮮だったようで、犬飼は戸惑いながらも、ひとつひとつに興味を示してみせる。ついには「あれは何だ?」などと自ら向かっていくものだから、羽柴はニヤける口元を抑えるのに必死だった。  そうして日も傾いてきて、そろそろ帰ろうかという頃。  駅に向かっていると、ふと犬飼が足を止めた。羽柴も同じように立ち止まれば、ペットショップの前だった。 「犬飼さんのこと、お友達だと思ってるんですかね?」 「冗談じゃない」  歩道に面したショーケースに入れられていたのは、生後間もないだろうポメラニアン。ガラスに張り付いて、しきりに尻尾を振っている姿といったら、犬飼のことを慕っているようにしか思えない。  が、当の本人は釈然としない顔をしていた。 「どうして、ポメラニアンなんだろうな」 「え?」  独り言のように呟く犬飼に対し、羽柴は首を傾げる。  犬飼はポメラニアンを注視しながら続けた。 「こうして見ると、俺には似つかわしくないと思ってな。明るくて好奇心旺盛で、人懐っこい。……まったく正反対だ」  何を言い出すかと思えば、なんとも自嘲めいた言葉が出てきて、驚かされてしまう。  確かにポメラニアンには愛嬌があるし、好奇心旺盛な性格にも頷ける。が、羽柴に言わせれば、それはあくまでも性格の一部だ。 「ポメラニアンって元気いっぱいに見えますけど、本当は繊細で、警戒心が強い犬種なんですよ」  ショーケースを見下ろしながら言うと、犬飼が意外そうに目を瞬かせるのがわかった。 「そうなのか?」 「ええ。ほら、小さい体のわりに『キャンキャン!』って、大きく吠えるイメージありません? 忠誠心が強いと言えば聞こえはいいけど、飼い主に依存しがちで、要求吠えも少なくないんです」 「そ、そんな気難しいやつだったのか」 「ですよね? でも、そういうところが可愛いっていうか……躾けは必要だけど、べったり甘えてくれるのって、飼い主としてはやっぱり嬉しいみたいな――」  そこまで言ってから我に返り、羽柴はハッと口をつぐんだ。犬飼へのフォローのつもりが、妙な話の流れにしてしまった気がする。 「いや、だからって犬飼さんがどう……ってわけじゃなく!」 「冷やかしも良くないだろ。そろそろ行くぞ」  慌てて弁解するも、犬飼に冷たくはねつけられてしまった。羽柴は肩を落としつつ、その後を追う。 (ああっ……何やってんだろ、俺)  もしかしたら、機嫌を損ねてしまったかもしれない。楽しい時間を過ごしていたというのに、最後の最後で台無しにしてしまうだなんて――。  ところが、そんな羽柴の考えも杞憂に終わったようだった。

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