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最終話 そして、その後の彼ら(2)★

「ん……っ」  何度か啄むように吸いつき、互いに柔らかく舌を差し入れる。  アルコールが入っているせいか、やたらと口内が熱く感じた。その熱に浮かされるまま、犬飼はさらに深い口づけを求める。  ところが、まさにこれからといったタイミングで唇が離れてしまった。 「っ、は……羽柴」  名残惜しげに名を呼ぶ。羽柴はこちらの唇を舐め上げてから、いたずらっぽく笑みを浮かべた。 「こっち、先にしましょうか」  手に提げていたビニール袋を軽く持ち上げて、視線を誘導する。中にはビールや缶チューハイ、つまみ用の総菜やスナック菓子といったものが入っていた。  どうやら、このままベッドへ向かう気はないらしい。犬飼が少しだけ気落ちしていると、羽柴が小さく笑って顔を寄せてくる。 「時間もまだあることだし、あとでゆっくりと……ね?」  耳元で囁かれた、その言葉にハッとさせられた。  頭をよぎったのは、先日言い渡されたベトナム駐在の辞令だ。時間なんてそう残されていない――〝もしものこと〟を思うと気が気でなかった。 「っ!」  次の瞬間、視界が大きく揺れる。  犬飼は羽柴の肩を掴み、力任せにフローリングの上へと押し倒していた。  突然のことに驚いたのか、羽柴が目を丸くするも構う余裕はない。そのまま馬乗りになって、組み敷いてみせる。 「抱いてくれ、羽柴。――今夜はもっと……めちゃくちゃにして構わないから」  それは、まぎれもない懇願だった。  羽柴の首筋に唇を寄せると、誘うようにねっとりと舌を這わせていく。それと同時に股間を擦りつけてやれば、羽柴が息を呑む気配がした。 「ちょ、蓮也さ――」 「どんなことされてもいいから、抱き潰してほしい……っ」  切羽詰まった声で言いながら、必死になって腰を揺らす。  すると、いよいよ折れたのだろう。羽柴が突然起き上がり、形勢逆転とばかりに覆い被さってきた。こちらの体を跨いで、低い声音とともに見下ろしてくる。 「蓮也、Give(ちょうだい)」  一瞬、本当に息が止まった。  まるで心臓を鷲掴みにされたようだ。全身の血が沸騰しそうなほど熱くなって、どこもかしこも力が入らない。 「ぁ、羽柴……」  首筋を噛まれ、期待に胸が疼く。  身も心もすべて、とっくに羽柴の支配下にあった。  その後のことは、正直よく覚えていない。とにかく羽柴に抱いてほしくて、なりふり構わず求めてしまったことだけは確かだ。  気がつけば、犬飼はベッドの上に横たわっており、傍らにいる羽柴に腕枕をされていた。 「……すまない。飛んでたか?」 「ちょっとだけ。サブスペースに入ってそのまま、みたいな感じで」  羽柴が苦笑しながら、犬飼の前髪を撫でてくる。  行為の最中に飛んでしまったらしいが、ようやく意識が戻ってきた。  掛け布団を捲れば、下着一枚という姿なものの、特に肌のベタつきなどは感じられない。  おそらく、羽柴が後処理をしてくれたのだろう。……当の本人はというと、気恥ずかしそうにしていて、どうにも落ち着かない様子だが。 「あーナカに出しちゃったぶんは、風呂場でちゃんと掻き出したんで……その、大丈夫かと」  そういえば、そんなことをせがんだ気もする。  羽柴に抱かれている間、ずっとサブスペースに入りっぱなしで、理性も何もかも吹き飛んでいたのだ。  だから、普段なら口にしないようなことまで言ってしまったし、はしたない真似もしてしまった。記憶が少しだけ蘇ってきて、あまりの羞恥に死にそうになる。 「そ、そうか。世話をかけたな」 「そんなっ、とんでもない! 俺、蓮也さんのことお世話するの大好きです!」 「っ……君なあ」  犬飼は堪えきれずに吹き出した。  それを見た羽柴は、ホッと安堵した様子で表情を和らげる。 「よかった。蓮也さん、笑ってくれた」

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