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番外編 はじめての発情トラブル(5)★

「っは、ぁ……」  犬飼はシーツの上に手をつき、強烈な絶頂感をやり過ごそうとするも、全身の震えが止まらない。ふわついた心地で呆然としていたら、羽柴が緩やかに頬を撫でつけてきた。 「上手にイけたね、蓮也。Good boy(いい子)」 「――……」 「……ああ、もうこれだけでイッっちゃうんだ」  褒められただけで、ぷしっぷしっと精液が細く吐き出される。  羽柴はそのさまを見届けたのち、犬飼の腰を掴むと、ぐるりと体勢を反転させた。ベッドに仰向けになったこちらを見下ろす形で、含みのある笑みとともに覆い被さってくる。 「まだご褒美足りないでしょ? いっぱい気持ちよくしてあげるから、今度は一緒にイこ?」  それからはもう散々だった。  何をされても気持ちがよくて、数えきれぬほど達しているというのに、さんざん()かされて――結局、羽柴の気が済むまで抱かれ続けたのである。  ちゃぷん、と。湯が波立つ音が聞こえて、犬飼はゆっくりと微睡みから覚醒する。  あの後、羽柴が甲斐甲斐しくも風呂に入れてくれたのだが、ようやくサブスペースから抜け出せたらしい。ぼんやりとした意識のなか、背後から抱きしめられる形で湯船に浸かっていた。 「蓮也さん、大丈夫ですか? ちゃんと満たされましたか?」 「むしろ、ヤりすぎだ……この絶倫」  あれだけやっておいて、何を言っているのだろうか。全身キスマークだらけで、下半身も怠くて敵わないというのに――犬飼は頭を抱えて返すほかない。 「はは……すみません。今日の蓮也さん、あまりにエロくてつい」  言って、羽柴がうなじに口づけてくる。ちゅっ、というリップ音が浴室内に響き渡り、犬飼はつい肩を揺らしてしまった。 「っ、こら」  振り向いて背後の男を見やると、まだどこか熱っぽい顔をしていた。視線が絡まって、ゆっくりとその顔が近づいてくる――のだが、 「Stay(待て)!」  犬飼はそんな言葉を口にする。  もちろん、Domが発するような効力はないのだが、羽柴は律儀にも言うことをきいてくれた。しょんぼりといったふうに眉根を寄せながら、「ううっ……」と耐えている。  先ほどまでとは打って変わって、まるで飼い主に叱られた犬のようだ。犬飼はフッと笑うと、込み上げる愛おしさに口づけてやった。 「君ってやつは、どこまで俺を惚れさせる気だ?」  そう上目遣いで続ければ、羽柴は目を丸く見開いて赤面した。こちらの体をぎゅっと抱きしめながら、感極まったように口を開く。 「蓮也さんこそ、どんだけ俺をキュンキュンさせれば気が済むんですか!」 「おい、そんなに抱きしめられたらっ」  そこで犬飼は言葉を失った。  何やら熱くて固いものが、腰のあたりに当たっているのだ。言うまでもないが、羽柴のものが性懲りもなく主張している。 「……羽柴」 「いや、その……これはですね……」 「まったく。君の方がよほど発情しているんじゃないのか?」 「す、すみません! 愚息がご迷惑をおかけしてすみませんッ!」  ……対照的に当人は縮こまっているのが、ちぐはぐで面白い話ではある。犬飼はやれやれとばかりに肩をすくめた。 「まあ、わざわざ咎める理由もないが」 「!?」  羽柴が驚いたように、ガバッと顔を上げる。  本当にわかりやすい男だと呆れつつも、犬飼の口元は自然と弧を描いていた。

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