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匂い…付けんな

急いで大和ん家来て あ… こんな時間に、インターホン鳴らさない方がいいのか? ちょっと冷静になる 四葉、寝てるかもしれないしな そ~っと鍵を開けて、中に入る 夜遅くに、怪しい奴でしかないな 「お邪魔しま~す」 小さな声を掛けながら、靴を脱いでると カチャ リビングのドアが開いた げっ! と、思ったら 「朔君、朔君。大和と何かあった?」 と、おばさんが小声で話し掛けてきた これは… うちの母さんから、俺が来るって聞いたんだな 「こんばんは」 「なんかね…大和、いつも通りなんだけど、なんかね…変なのよ。ちょっと元気ないって言うか…おばさんには分かるの。朔君と喧嘩でもした?」 元気ないって… おばさんが気付く感じなんだ 「喧嘩って言うか……俺が悪いんです」 「朔君、仲直りしに来てくれたのよね?」 「仲直り…ってか…大和は悪くないんで…謝りに来ました」 「そう…」 そう言うと おばさんが、俺の頭軽く撫でながら 「大丈夫。ちゃんと仲直り出来るわ」 「いえ…だから、大和は悪くないんで…」 「朔君、大和とずっと仲良くしてくれて、ありがとね?」 「……え?」 「あの子…朔君の前でしか素直になれないから、朔君大変でしょ?なのに、付き合ってくれて、ありがとね?」 「おばさん…」 そんな風に… 思ってくれてたんだ 「朔君が居ないとダメなんだから、許さないなんてないわ。大丈夫よ」 俺が居ないとダメなんてないけど 許さないなんて普通にあると思うけど 「ありがとうございます」 俺達を見守ってきてくれた、おばさんが そんな風に言ってくれんのが、何よりの応援 「もう遅いから、仲直りしたら泊まってくのよ?」 「はい。ありがとうございます」 そう…なれたらだけどね 「あ、四葉寝てるから。ユウは、お風呂入ったばっかり」 「あ、はい。分かりました」 そんな大声では、怒鳴んないと思うけど… 取っ組み合いの喧嘩とか、ないと思うけど… 階段を上り、大和の部屋の前に立つ ふぅ~……よしっ コンコン 「大和…さっきは、ごめん。ちょっと…入っていい?」 「…………」 無視か まあ…口も利きたくないかもな 「悪い…ちょっと入るぞ」 ゆっくりと大和の部屋に入ると 電気も点けず、カーテン開けっ放し あの大和が、制服の上着も脱がずに ベッドに横になってる きっちりしてて 皺になるからって すぐにハンガーに掛けるのに パタン 「大和…ごめん。ちゃんと全部読んだ。俺の事心配して、母さんにも連絡してくれてたんだな?」 「…………」 「今日…じいちゃんとこ行くのもやめて、俺の事探し回ってくれたんだよな?なのに俺…あんな酷い事言って、ごめん」 「…………」 ピクリともしない 相当怒ってる? 「大和…聞いてる?」 傍に行ってみるけど 薄暗くて、背を向けて横になってる大和が 目を開けてるのかどうかすら、見えない え? まさか寝てないよな? いやいや 相当怒って、こんな格好で こんな短時間で、寝る男じゃねぇよ 「大和…なぁ、ごめんって。何か言ってくんない?」 まさか… 泣いてないよな? 大和が、こんなんで泣くかよ 「大和って…」 ベッドに腰掛けて そっと大和の肩を揺らすと 「……触んな」 ようやく喋った 「悪い…ごめん、大和。せっかく俺の事考えて、してくれたのに、あんな風に言って怒鳴って…」 「……別に…お前に頼まれた訳じゃない」 「そうだけど…助かったよ。母さん、心配してたろうし…」 「……おばさんだって、ほんとに心配したら、電話すんだろ」 ……何だ? なんか… 怒ってる訳じゃないのか? 「大和…怒ってんじゃないのか?」 「……俺が怒る理由…ないだろ」 「…は?あるだろが…俺の為に散々頑張った挙げ句、俺に構うな的な事言われたら、そりゃ怒って当然だろ」 「……だから…お前に頼まれてない…俺が勝手にした事で…俺が腹立てて……怒ってんのは、お前だろ?」 「……え?」 どうした? 大和じゃないみたいだ 暗くてよく見えないから… 別人なんじゃないの? 「大和…なぁ、俺は怒ってない。謝りに来たんだ」 「……あっそ…じゃあ俺は怒ってないから、もう帰れば?」 なんか… ほんとに、どうした? こいつ… まさか、ほんとに 泣いてねぇよな? 「……なぁ…その…仲直り出来たなら…ちょっと一緒に横になっていい?」 「…意味分かんねぇ」 「いいだろ?ちょっとくらい」 大和の後ろに横になる 「なぁ、大和…今日あった先輩さ…ちょっと、お前に似てたんだ」 「……は?」 「いつも優しくて、女だけじゃなくて、男からも憧れられる、人気者の先輩なんだ。なのにさ…道の端のガードレールに、背中丸めて座ってて…なんか…声掛けずには、居られなかったんだ」 「…俺は、そんな事しない」 「まあ…そうだろうけどさ…」 そんな事しないからこそ 頑張り過ぎて疲れちゃうんだから お前と一緒だろ? 「…あんまり近寄るな」 「だって大和、全然こっち見てくんねぇし…」 「近寄ると……」 「あ?近寄ると、何なんだ?」 大和を上から覗き込むと 「…うおっ!」 突然押し倒された どうなってんの? 情緒は…不安定だよな 「……俺に近寄るな…そんな匂い付けたまま…俺に近寄るな…」 「……に…匂い?」 大和が、俺の上に四つん這いになってる 匂いって? 汗臭いから、シャワー浴びてから出直せって事? いや、そんなん今更だろ 「えっと…バイト先の匂い…そんな染み付いてる?」 「……馬鹿が」 「えっと…まさかとは思うけど、俺の汗の匂い気になるとか?」 「……お前は…馬鹿だけど……別に…それでいいんだよな…」 「…はあ?」 馬鹿じゃねぇし 馬鹿だと思われたままで、いいとか何? パタン… あ…ユウ…風呂上がったんだ 「……やっぱ…日曜日…いいわ」 「………はっ?!」 「…悪かったな」 そう言って、俺の上から退いて また、背を向けて転がった これは… 本格的におかしいぞ なんか、調子悪いのに走り回って 更におかしくなったか? 「大和…具合悪いのか?」 「……別に…もう帰れよ」 「…帰れる訳ねぇだろ?」 「何で」 「お前が、いつもの悪魔じゃねぇから」 「………っそ…好きにしろ」 悪魔なら そこは、静かに怒るとこだろ? んで、俺じゃ考えられねぇ事してくんだろが どうしたよ? 大和のくせに、天使とか出しちゃったから コントロール不能になったか? 「はぁ…んじゃ…」 大和を、後ろから抱き締める 「…匂い…付けんな」 「だから、何の匂いだよ?俺ん家の匂いの事?なんで今日に限ってそんな…」 「お前…腹立つ…」 「あ?だから、謝って話したいんだってば」 「お前…腹立つ……全部…脱いだら話してやる」 「………え?」 急に悪魔出て来た 悪魔だけど… なんか… 随分と弱々しい悪魔だな 「はぁ…分かった分かった。どうせ全部見られんだ。脱ぎゃいいんだろ?」 今更、こんな暗がりで 大和に見られたって 起き上がって、上着を脱ぎ ネクタイを緩めてると 大和が起き上がって、こっちを見た 「何だよ?ちゃんと脱いでるって…ってか、お前も上着くらい脱がないと、皺になんぞ?」 「…………」 はいはい 喋ってねぇで、さっさと脱げって事ね? ネクタイ外して シャツを脱ぎ終わると 「……え?」 ………は? 大和が抱き付いてきた 全然理解不能なんだけど? 俺は、このまま大人しくしてりゃいいのか? まだ全部脱いでないけど? 「お前の髪…嫌い」 「あ?」 「匂い…残ってる」 「…大和…さっきから言ってる匂いって、何の匂いなんだ?」 俺の質問なんて聞こえてないみたいに 俺の首、肩、腕…胸、背中… 犬みたいに、嗅ぎまくってる 嗅いでんだよな? なんか…顔触れるから キスされてるみたいなんだけど… 「えっと…シャワー浴びてないから…服脱いでも…臭いもんは臭いと思うけど?」 「……馬鹿朔…お前の匂いは、いいんだよ」 「…は?」 お前の匂いはいい? 俺の匂いは許可 じゃあ、誰の匂い…… って…誰って… もしかして…瀧花先輩? 「…え?もしかして…先輩の匂いの事…言ってんの?」 「……………」 え…マジで? ってか… 「え?そんなに匂いなんてする?先輩ん家…そんな変わった匂いなんてしなかったけど…」 「そんな変わった匂いしないのに…付くだけの事…したからだろ?」 「付くだけの事って…」 まあ… しばらく抱き締めてたし 先輩…すげぇ泣いて、しがみ付くみたいになってたからなぁ… 「お前は…昔からそうだ」 「はあ?」 「お前の事なのに…お前は…どうでも良くて……お前の事なのに…俺が…」 「…大和?」 何が言いたいんだか、さっぱりだ 昔からって? 「~~~~っ…同じ事しろ」 「は?同じ事?」 「その…先輩としてきた事…しろ」 下向いて、そう言った大和が なんだか必死に見えて… 「別にいいけど?」 「~~っ…いいのかよ」 「あ?訳分かんねぇな…どっちだよ?」 「~っ…さっさとしろ」 「はいはい」 訳分かんなくても 弱ってても 根底が悪魔だからな 大和を抱き締めようとして やっぱ、上着だけでも先に脱がしとくか 「大和…とりあえず、上着脱がせるぞ?」 「……好きにしろ」 言い草よ けど、素直に上着脱がせられる大和は やっぱ、いつもと違うな ついでにネクタイも外しとくか シャツは…洗濯するし、いっか 「あ~…じゃあ、抱き締めるけど…いいのか?」 「…いちいち聞くな」 「へぇへぇ…」 大和を抱き締めて 頭やら背中やら撫でる すっかり力抜いて、俺に体預けてる大和は なんだか、撫でてやるのに最適だ ほんと、こいつの髪は触り心地がいい ユウもこんな感じだな シュウも思ってるだろなぁ 触り心地いいなって… 「……いつまで、こうしてるつもりだ」 「…はあ?!お前が、しろって言ったんだろが!」 全部脱げだの 先輩としてきた事しろだの んで、したらしたでキレてんのかよ?! 「だから…この後の事…早くしろ」 「この後の事?……って?」 「下手な芝居すんな…さっさと続きをしろ」 「続き…続きは…先輩、落ち着いたから、少し話して帰って来たんだよ」 「…へぇ...馬鹿のくせに、嘘吐くのは一人前か」 「嘘じゃねぇよ!なんで俺が先輩と…」 「朔だから…」 「…はあ?」 全然意味分からん けど… 俺が先輩と、そういう事してきたと思ってキレてたのか ケツ触らせんなって怒ってたもんな これで、誤解解けて一件落着じゃねぇの? 「とにかく…俺は先輩を慰めて来ただけだから…」 「だったら…先輩にしなかった事しろよ」 「…あ?」 「その先輩とはしなかったって言う…続き…お前が…俺にしろ」 悪魔の頭がおかしくなると こういう事も起きるのか? 悪魔が、無茶苦茶な命令してんだけど その悪魔は…泣いてる様にも見えて… 俺は…この悪魔が泣くのに… とんでもなく弱いんだ

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