37 / 50

愛おしそうに

ほんとに、すぐ近くだった先輩のアパート 階段を上る先輩の足取りが、危なっかしくて 俺は、先輩の足元ばっか見てた 玄関の前に着いて 鍵を出した先輩が、ガチャガチャやってる まるで、手元が見えてないかの様で ふと、見上げると… 先輩の目は…涙で今にも溢れそうだった 先輩の、ガチャガチャしてる手を取って、鍵を開ける ガチャ 「あっ…っ…ありがと…」 後輩に…あんま、見られたいもんじゃたいだろうけど… 「先輩、ちょっとだけ上がってもいいですか?」 「え?…いっ…いいけどっ…」 「失礼します。段差…気を付けて下さい」 「あ…うんっ…」 靴を脱いで、玄関上がろうとする先輩の背中を支える いつもは大きな先輩が 今日は、やけに小さく見える 先輩は、もう、泣きじゃくりながら ほとんど見えてないらしく ドアを開けて、先輩をベッドに座らせる 「ごっ…ごめんっ…東雲っ…」 「謝んないで下さい。先輩には、散々お世話になってますから…えっと…なんか…飲み物とか、持って来ましょうか?」 「っ…大丈夫っ……あとっ…大丈夫だからっ…ありがとっ…」 もう、帰れって事かな たいして親しくもないし その方がいいよな… 「じゃあ…失礼します」 「んっ…ありがとっ…」 立ち上がって、ドアに向かって歩き 電気点けた方がいいのかな? と、振り返る 月明かりの薄暗い部屋で 小さな先輩が 1人、体を震わせて泣いている もう…見ちゃったしな 頼りない後輩でも 1人よりはマシだろ 先輩の元に戻って、隣に座る 「っ…東雲?…どっ…した?」 「先輩…俺、もう見ちゃったんで…」 「見ちゃっ…た?」 「枕とか…クッションとかより、抱き心地良くないと思いますけど…」 「え?」 「先輩を抱き締めてあげる事は、出来ますが…」 生意気かな 男の後輩に そんなん求めないか 「あ…いや……傍に居るだけでもいいし…もし、なんか俺に出来る事あったら…」 「東雲っ…」 「先輩…」 先輩が、抱き付いてきて 「抱き締めてっ…あげるがっ…いいっ…」 まるで、子供みたいに そう言った 「ふっ…分かりました」 大和と一緒 普段、こんなとこ見せない人ほど きっと…ほかの人より、泣きたくなるんだ いっぱい泣いていいよ いつも、我慢して頑張り過ぎだ 溜め込むから、こうなるんだ 大和にそうする様に 先輩の頭や背中を撫でてあげる 先輩は、しばらく思いっきり泣いて ようやく落ち着いた 「ごめん…東雲」 「少し、落ち着きましたか?」 「凄く落ち着いた…東雲、なんか安心させるの上手」 先輩が、俺から離れて ほんの少し笑いながら話す 「ちょいちょい、こういうのあるんで」 「その…腐れ縁の子?」 「はい。先輩と違って、ほんと、悪魔みたいな、やっかいな奴なんですけどね」 悪魔みたいってか 悪魔だけど ほぼ悪魔でしかないけど 「…東雲は、その子の事が好きなのかな?」 「………え?!はあ?!」 「ふっ…動揺し過ぎ…東雲、可愛い」 「いや!いやいやいや!あり得ないんで!」 っつ~か、男なんで! って、言おうとして 男の腐れ縁に、あんな事してるって言ったら 益々怪しまれると思って、言うのやめた 「俺の事、その子にする様に、慰めてくれたんだろ?」 「はあ…まあ…」 「凄く…大切そうに触れてたから…東雲の、優しくて温かい気持ち、伝わってきたから」 「そっ…それは誤解です!」 「そうなの?凄く…愛おしそうに、撫でてると思ったんだけどなぁ…」 「いっ?!いとっ…?!」 おぇっ… 大和と愛おしいが、合わな過ぎて 吐きそう 「ははっ…ごめん。凄く元気になったよ。ありがとな?東雲」 「いえ…」 「さ、駅まで送る。行こ?」 「えっ?いや、大丈夫ですって。また先輩を1人で歩かせる方が心配ですから!」 「そう?暗いから、気を付けるんだよ?」 「はい。それじゃ、失礼します」 先輩は、結局アパートの前まで出て来て 俺が見えなくなるまで見送ってくれた ま、あの感じなら もう階段の心配もない… 「それで?」 え? 耳元で…声… 「こんな時間に友達と何してたの?」 声の聞こえる右を向くと 悪魔がこっち見てて 恐怖と驚きで 俺は、その場に立ち竦んだ 「何か言えよ」 「……な…なんで…お前…」 それだけ言うのが、やっとだった だって… 大和がブチキレてる そもそもこいつは、今日は寺に泊まるって なんで、こんなとこに… 「通行人の邪魔だ」 ぐいっと大和に引っ張られる 先輩…瀧花先輩 俺…恐怖しか感じてないんですけど こんなの、好きとは、遠く離れてるんですけど 無言で大和と電車に乗る 気まずい なんで、何も喋らないのに居るんだ? こいつの意図が分かんね~ だいたい、なんであそこに居たんだよ? 駅き着いて、無言のまま歩いてると ヴヴ ヴヴ なんか…スマホ鳴ってるけど 今、見れる状況じゃない ヴヴ ヴヴ 「鳴ってるけど?」 「え?…ああ…もう少しで家だし…」 「見ろよ」 怖っ… 「いや…帰ってから、ゆっくり見るから…」 「見ろって」 「………はい」 何? 何なの? なんで、そんなブチキレてんのに なんも喋んねぇんだよ? 怖ぇよ 寺はどうした?寺は? スマホを見ると 先輩からだ 心配してんだ 「大丈夫だ。急ぐ用事じゃない」 「あ?お前の耳、どうなってんの?」 「え?」 「ちゃんと見ろっつってんだよ」 ちゃんと… なんで? 仕方なく、ちゃんとスマホを開いて 見る…と…… 「え?」 は? 大和から…なんか沢山連絡が来てる 「……えっ?何?何かあったのか?!悪い!俺、気が付かなくて…え?お前、ここに居ていいの?何?ユウ?」 「…………」 「大和?ごめん、早く帰ろ?」 それで、寺行ってないのか 俺に連絡つかなくて、バイト先の近く探してた? え? じゃあ…ユウじゃなくて… 「……え?大和…シュウになん…んむっ?!」 え? は? ちょっと…ちょっと待って 頭ん中パニック過ぎる ユウだかシュウだか分かんないけど 誰かに何かあったんじゃないのか? 暗いし人通り全然ないけど ここ…普通に道の真ん中 なんで今 俺は、大和にキスされてんだ? 「んやっ…大和っ…やめろっ…」 「はぁ…何してきた」 「はあ?」 キスを止めた大和が、俺の髪やら、首やら、胸やら、犬かの様に嗅ぎまくる 「大和…シュウに、何かあったんじゃないのか?」 「何も…」 「え?ユウにも四葉にも?」 「ああ…」 「なんっだよ?!ビビらせんなよ!」 「ただ普通に遊んでて、こんだけ匂い付く事ねぇよな?何してきた?」 「……え?」 遊んでて… 匂い…付く… 先輩ん家行った事か? 「バイト先の先輩が…」 「バイト先の先輩…なるほどね。そいつと何して来たの?」 「んっ…!耳触んな!」 大和の手を振り払う 悪魔に弱点知られてしまうなんて 「別に、何してって事ねぇよ!」 「家に遊びに行く様な仲なのか?」 「あ?違うけど…関係ねぇだろ?」 「違うのに、なんで行ったんだ?」 何これ なんで、こんな事になってんの? 「はぁ…偶然見かけた先輩が……なんか、ほっとけない感じだったんだよ。もういいだろ?」 家に向かって歩き出す 知らない奴だとしても 泣いてたとか、あんま知られたくないだろ 『無事着いたかな?』 『念のため、家に着いたら教えて』 人の心配してる場合じゃないのに 『もう家に着くので大丈夫です』 もういいから、休んで下さい ヴヴ ヴヴ 『良かった』 『今日は、ほんとにありがとう』 「ふっ…」 なんか… 今日の先輩は、後輩みたいだ 『ゆっくり休んで下さい』 「お前…」 ビクッ! 一瞬、忘れてた 悪魔の存在を… 「そいつの事、好きなの?」 「……え?」 そいつって…先輩? 俺が先輩を好きかって? は? なんだ?その質問… ってか、だんだん腹立ってきたんだけど こいつが、何にキレてて 何をしたいんだか、サッパリ分からない 「おい、朔…」 「~っだったら何だよ?!」 「…あ?」 「俺が、誰を好きで、誰と遊ぼうと、お前に関係ないだろが!何なの?何がしたいの?…意味の分かる事は、俺だって協力する。意味分かんねぇ事で、俺に絡んでくんな!」 言った 言ってやった 初めて大和に反抗した 初めての反抗期 まさか俺が、あんな事言うとか思ってなかった大和は、びっくりしたのか 足早に家に向かった俺の後を、追って来る事はなかった ケッ… いつまでも、思い通りじゃねえんだぞ 「ただいま~」 ガチャ 「お帰りなさ~…い?」 ん? 「あら~?大和君、帰っちゃったんだぁ」 え? 「なんだぁ…」 なんで、大和と一緒って… 「なんで、母さん…俺が大和と居たって、知ってんの?」 「そりゃ、大和君から連絡もらってたもの」 「……は?」 「朔が、間違えて俺に送ってきたみたいでって、友達の家に寄る事教えてくれて…」 「えっ?!」 間違えて? 俺… 「…あっ!」 大和に…送ってる… 「だいぶ暗くなってきて、大丈夫かしら~?と、思ってたら、大和君が、たまたま朔と合流したから、軽く何か食べてから帰りますって、ちゃ~んと送ってくれてたのよ。だから、てっきり大和君も、家に来ると思ってたのに~」 「……そ…そうだったんだ」 「ほ~んと、大和君は、しっかり者ね~?ちゃんと、お礼言っとくのよ?」 「…ああ」 え? 待て待て待て もう…頭ん中ごちゃごちゃ過ぎて… 俺が、間違えて大和に送って 大和が、母さんに伝えてくれて 暗くなって心配してるだろう母さんを心配して 大和は、俺を探してくれて 俺を見付けて、母さんに連絡してくれて その大和に俺… 「意味分かんねぇ事で、俺に絡んでくんな!」 …って、言っちゃった いや…でも、口出し過ぎなんだよ 誰と何してたとか 俺が誰を好きとか それは、だって関係ないじゃん? けど… やっぱ、悪い事したかな… 「はぁ…謝っとくか…悪魔だしな」 仕方なく、大和に連絡する為スマホを開く 心配してくれたんだろうけど どんだけ連絡してきてたんだよ? 先輩慰めんの必死で、全然気付かんかった 『こんな時間から遊びに行くな』 『おばさんが心配する』 はいはい ごもっとも 『迎えに行ってやる』 『何処に居るか教えろ』 だから、何でだよ? 『その友達とすんの?』 すんの? 『一緒に頑張るんじゃなかったのかよ?』 一緒に… 頑張るって… あ…アレの事? 『お前と合流したって、おばさんに伝えといた』 『軽く食ってくって言っといた』 『なるべく早く帰ってやれ』 俺と…会う前に 会えるか分かんないのに 母さんに送ってたんだ 『助けが要るなら連絡しろ』 『迎えに行ってやる』 え… 助けが…要るなら… あ… そうか 大和は…あの時の事、思い出したんだ 『馬鹿朔』 『馬鹿面して寝てんな』 『起きろ!』 「あ…」 俺が…寝てて… 何かされてると思ったのか 『さっさと起きろ!馬鹿朔!』 それから、何度か電話してきてて… 「大和……」 怒ってたんじゃなくて 心配してたんだ 心配し過ぎて 怒ってたんだ 俺…酷い事言った こんなに心配して、探し回ってた大和に… 俺… 階段を、一気に駆け下りる 「朔~?」 ガチャ 「母さん!やっぱ、大和にお礼言って来る!」 「そうね。それが、いいわ」 リビングから出て来た母さんは 何故だか、大和ん家の合鍵を持ってて 俺は、それを握って 「行って来る!」 大和ん家へと走った

ともだちにシェアしよう!