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泣きたくなってくる
バイトが終わって帰る途中
携帯が鳴った
朔からだった
『友達の家寄るから、帰り遅くなる』
明らかに、おばさんに向けたものだ
馬鹿だからしょうがないが
ちゃんと確認しろよな
しかも、こんな時間になってんのに
これだけって…
金曜日の…バイト帰りとか…
どんな友達とか、酒飲む様な集まりじゃないかとか、おばさん心配すんだろが
「はぁ…まったく」
『朔が間違えて俺に連絡してきました』
『バイト帰りに、学校の友達に会ったので、少し家に寄ってから帰るそうです』
今日も今日とて、どんな1日を過ごしたんだか
俺の付けたキスマークは、また馬鹿なクラスメイトどもを呼び寄せたんだろうか?
それでも、こんな事があるから、念のため付けておかなければならない
「遅くなるって…もう、遅いっつ~の」
馬鹿朔が…
家…バイト先の近くなのかな
いや…そんなの分かんねぇよな
「チッ…」
世話の焼ける…
『こんな時間から遊びに行くな』
『おばさんが心配する』
とりあえず、バイト先の方に向かってみるか
全っ然…既読にもならねぇな
あんな一文送ったらOKとか思ってる自体馬鹿だ
『迎えに行ってやる』
『何処に居るか教えろ』
友達って?
この時間なら、バイト先の奴が濃厚だよな
この時間に、たまたま他の友達ととか、考え難いよな
バイト先の奴なら…
歳上だって沢山居る
「こんな時間に、家とか行くなよ…馬鹿朔」
なんで家行くんだよ?
その辺の店で、いいじゃねぇか
家じゃなきゃダメな事でもすんの?
昨日ちゃんと話したじゃん
それでも不安だった?
そういうの知ってる先輩でも居た?
泊まりじゃないなら、いいとか思ってんの?
『その友達とすんの?』
『一緒に頑張るんじゃなかったのかよ?』
なんで、全然見ないんだよ
見ろよ!
くそっ!
俺とする為に、他の奴と練習すんの?
それとも、全然別の理由?
単純に家に行って遊ぶくらい仲いい?
それとも…
遊びに来いって言われて、断われなかった?
なんで…
あいつの周りには、こんな事ばかり起きる訳?
普通に遊んでんのかもしんないけど
馬鹿だけど…
あいつも、家族の事大事にしてるから
こんな時間にあの一文だけってのが…
なんとなく胸騒ぎがする
朔のバイト先の近くに着いた頃
おばさんから連絡が入った
『大和君の方に何か連絡いってる?』
『結構暗くなってきてるけど、まだまだ遅くなるのかしら?』
ほらな
心配しない訳がない
そして…
普段の朔なら
そんなの考えられるはずだ
記憶の隅にある
いつかの朔がちらつく
「はぁ…」
『ちょうど今、たまたま朔と合流しました』
『小腹空いたんで軽く食べてから帰ります』
『うちの母さんにも伝えておいてもらえますか?』
気にし過ぎなんだろうか
あいつは、まるで気にしてない様に見える
俺だけが…
いつまでも馬鹿みたいに気にして…
あいつが俺から離れて男子校行ったのは
俺へのサインだったのかもしれない
もう、干渉すんなって…思ってんのかな
バイト先と駅を結ぶ道
その道の端のガードレールに腰掛ける
『お前と合流したって、おばさんに伝えといた』
『軽く食ってくって言っといた』
『なるべく早く帰ってやれ』
朔は…弟じゃない
シュウみたいに、家族同然の歳下の奴でもない
だから…別に…
俺が、兄ちゃんとして守らなくたっていい訳で
なのに
頼んでもないのに、色々考えて干渉する俺が
ウザイとか思ってんのかな
そうだ
じいちゃんのとこ…今日はもう無理だ
母さんに連絡してもらおう
約束したのに、ごめん…じいちゃん
馬鹿朔のせいなんだ
全然…既読にならない
何かに…誰かに…
夢中になってんのか
見れない状況なのか
それでも別に
朔は困ってないのかもしれない
朔から俺に、助けて欲しいなんて言ってきた事ない
『助けが要るなら連絡しろ』
『迎えに行ってやる』
別に…
困ってないならいい
何してたって
朔が泣いてないなら
あいつが馬鹿だから
あんな格好させられて
涙浮かべて…
馬鹿面なんてして寝てたから…
あんなん見せるから…
『馬鹿朔』
『馬鹿面して寝てんな』
『起きろ!』
ウザくたって別にいい
朔ごときが、俺に何言ったって何でもない
それより…
「~~っ…」
もしも…あんな事されてたら…
友達って…何人だよ?
女だったら許してやる
褒めてやる
男だったら…
お前…男を寄せ付けるフェロモンでも出してんの?
『さっさと起きろ!馬鹿朔!』
こんだけ連絡して
なんで全然気付かねぇんだよ?!
何…してんだよ
何…されてんだよ
「くそっ!」
電話しても...全然出ない
「お前…彼女居ない空気出してたじゃん」
居ろよ
実は彼女とイチャついてろよ
もう、いい加減帰るか
暗くて…朔が居ても見付けられないかも
なんか食べてくって言っても
そろそろ母さん達心配すんだろ
俺1人で帰ったら
おばさん、びっくりするよな
俺のとこ泊まるってのは、すぐバレるし
どうすっかな…
そんな事思いながら、駅に向かって歩いてると
小路から見覚えのある姿が出て来た
スマホ…未読のまま…
何なの?
何なの?
何なの?こいつ…
人が…こんなに心配してんのに…
何なの?
スマホを見ようともせず
普通の速度で歩いてる朔の近くまで寄り
耳元で話し掛ける
「それで?」
突然耳元で話し掛けられて
ビクッとする
「こんな時間に友達と何してたの?」
ようやく驚きながら、こっちを見て
馬鹿が、馬鹿面して立ち止まった
まともに話す事も出来ず
ただの通行人の邪魔者になった奴を引っ張って歩き出す
雰囲気からして
襲われたとかではなさそう
どっちかと言えば
やましい事して、俺にバレんのを畏れてそう
駅に着いて、無言のまま歩いてると
ヴヴ ヴヴ
朔のスマホが鳴る
が、見ようとしない
おばさんかもしんないのに
さっさと見ろやこの馬鹿!
ヴヴ ヴヴ
「鳴ってるけど?」
「え?…ああ…もう少しで家だし…」
「見ろよ」
こんな時間になってんのに
1度もスマホ開こうとしない
何考えてんの?
それとも
開いて俺に見られんのがやなの?
「いや…帰ってから、ゆっくり見るから…」
「見ろって」
「………はい」
ムカつく
イラつく
スマホをチラリとだけ見ると
「大丈夫だ。急ぐ用事じゃない」
と、スマホを仕舞おうとする
「あ?お前の耳、どうなってんの?」
「え?」
「ちゃんと見ろっつってんだよ」
ようやく、ちゃんとスマホ開いた朔が
「え?」
今さら驚いている
「……えっ?何?何かあったのか?!悪い!俺、気が付かなくて…え?お前、ここに居ていいの?何?ユウ?」
何時間前の見て慌ててる訳?
「大和?ごめん、早く帰ろ?」
早くって言ったって
もう、ちっとも早かねぇんだよ
ムカつく
イラつく
馬鹿だからしょうがないけど
なんで、こいつの事で俺が、あんなに悩まなきゃなんないの?
なんで、こいつの事なのに、こいつはいつも通りなの?
「……え?大和…シュウになん…んむっ?!」
いつもそうだ
こいつの事なのに
俺だけが必死になってる
こいつの事なのに
俺だけが、いつまでも忘れられない
けど…こいつは
俺に必死になれとも、忘れるなとも言ってない
俺が…勝手に…
「んやっ…大和っ…やめろっ…」
ムカつく
誰と何して
俺には、やめろと言うのか
「はぁ…何してきた」
「はあ?」
朔の髪も、首も、胸も、肩も腕も…
全部同じ匂いがする
「ただ普通に遊んでて、こんだけ匂い付く事ねぇよな?何してきた?」
「……え?」
「バイト先の先輩が…」
やっぱバイト先の先輩じゃん
先輩は今、男しか居ないんだろ?
「バイト先の先輩…なるほどね。そいつと何して来たの?」
「んっ…!耳触んな!」
髪…匂い付いてたら
耳も触られたんじゃねぇの?
「別に、何してって事ねぇよ!」
「家に遊びに行く様な仲なのか?」
「あ?違うけど…関係ねぇだろ?」
「違うのに、なんで行ったんだ?」
こんな時間に
家に
「はぁ…偶然見かけた先輩が……なんか、ほっとけない感じだったんだよ。もういいだろ?」
そう言って、歩き出した朔がスマホを見る
全っ然良くねぇよ
偶然見かけた?
バイト帰り一緒だったんじゃねぇのかよ?
ほっとけなくて、自分から声掛けたのかよ
まるで、そんな事なんて気にしてない馬鹿が
ヴヴ ヴヴ
また鳴ったスマホを見て
「ふっ…」
嬉しそうに笑って返信してる
腹立つ
なんでか知らないけど
泣きたくなってくる
「お前…」
ビクッ!
まるで俺の存在ごと忘れてたかの様に、びっくりしてる
悪かったな…
此処に存在してて…
「そいつの事、好きなの?」
「……え?」
馬鹿に馬鹿な質問してしまったと思った
けど…
なかなか答えない朔にイラつく
さっさと否定しろ
「おい、朔…」
「~っだったら何だよ?!」
「…あ?」
「俺が、誰を好きで、誰と遊ぼうと、お前に関係ないだろが!何なの?何がしたいの?…意味の分かる事は、俺だって協力する。意味分かんねぇ事で、俺に絡んでくんな!」
…ほらな
まあ…そうだよな
だからお前…
わざわざ高校離れたんだよな
そこまでしてんのに
絡んでくるから
俺…ウザイんだよな
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