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何なの俺
「ただいま」
「お帰りなさい」
「母さん、じいちゃん怒ってなかった?」
「怒ってないわよ。大和はお坊さんじゃないんだから、嫌だったら行かなくたっていいのよ?」
「そうだけど…約束したしね。明日の夜は泊まりに行くよ」
「そう?なんか…大和、元気ない?」
凄いなぁ
いつも通り話してるつもりなのに
「馬鹿朔が面倒かけるから、少し疲れただけ。ご飯食べたし、俺ちょっとこのまま休むね」
「調子悪かったら、我慢しないで言ってね?」
「分かってる。ありがと」
階段上るだけなのに、足が重い
1段1段が…凄く高く感じる
部屋に入り、制服も脱がずに横になる
きっと皺になっちゃうだろな
でも…
なんかもう…
指先1本動かす気力ない
疲れた…
馬鹿みたいだ
誰の為に疲れてんのか
もう…
何も考えたくない…
そう思ったのに…
コンコン
「大和…さっきは、ごめん。ちょっと…入っていい?」
なんで…
なんで来たんだろ
わざわざ謝りに?
馬鹿だな…
何も謝る事なんてないのに
「悪い…ちょっと入るぞ」
勝手に入って来んな
パタン
「大和…ごめん…」
なんか、一生懸命謝ってる
「…なのに俺…あんな酷い事言って、ごめん」
なんで謝ってんだろ
「大和…聞いてる?」
一応聞こえてるけど?
「大和…なぁ、ごめんって。何か言ってくんない?」
何言えばいいんだよ
勝手に迷惑な事しといて
お前が謝って俺が許すっておかしいだろ
「大和って…」
朔がベッドに腰掛けて
俺の肩を揺らしてきた
知らない匂いを漂わせて
「……触んな」
お前は悪くないんだから謝んな
そんな匂い付けたまま俺んとこ来んな
こいつは俺に怒られ慣れ過ぎておかしくなってんだ
自分が悪くなくても俺の機嫌取ろうとする
なんでって
家族が大事だから
どんな理不尽な事言う腐れ縁だって
俺との仲…悪くしたくないんだ
「……俺が勝手にした事で…俺が腹立てて……怒ってんのは、お前だろ?」
今回だけじゃなく
ずっと怒ってたのかな
でも、俺に口答えとか無理で
喧嘩とか避けて
考えた結果、別の高校行ったのかな
「大和…なぁ、俺は怒ってない。謝りに来たんだ」
お前が謝んないと
どうにもならないってインプットされてるもんな
「……あっそ…じゃあ俺は怒ってないから、もう帰れば?」
「……なぁ…その…仲直り出来たなら…ちょっと一緒に横になっていい?」
何考えてんのこいつ?
仲直り出来たなら、さっさと帰れよ
「…意味分かんねぇ」
「いいだろ?ちょっとくらい」
何なの?
なんで俺の傍に居ようとか思える訳?
勝手に俺の後ろに横になった朔が
「なぁ、大和…今日あった先輩さ…ちょっと、お前に似てたんだ」
とか…
何とも不快な事を言い出した
「……は?」
「…道の端のガードレールに、背中丸めて座ってて…なんか…声掛けずには、居られなかったんだ」
何こいつ…
俺がそうやってお前の事探してた時
お前、ガン無視だったろが
「…俺は、そんな事しない」
「まあ…そうだろうけどさ…」
そうだろうけどじゃねぇよ
全然そんなんだったんだよ
動く度、朔から知らない匂いがする
ムカつく
俺に似てる先輩は、ほっとけなくて
俺の事はガン無視しやがってムカつく
「…あんまり近寄るな」
「だって大和、全然こっち見てくんねぇし…」
「近寄ると……」
「あ?近寄ると、何なんだ?」
匂いすんだよ!
どんだけくっ付いて、何して来たんだよ!
近寄んなってんのに、上から覗き込んで来た奴を押し倒してやる
「…うおっ!」
ムカつく
ムカつく
「……俺に近寄るな…そんな匂い付けたまま…俺に近寄るな…」
「……に…匂い?」
なんで、こんなムカついてんのか
そんな自分にイラつく
「えっと…バイト先の匂い…そんな染み付いてる?」
ほら、朔にとっては何でもない事
困ってない事
「……馬鹿が」
馬鹿は…俺だ
「えっと…まさかとは思うけど、俺の汗の匂い気になるとか?」
馬鹿が馬鹿な事言ってるけど
それ以上に俺が馬鹿なんだ
「……お前は…馬鹿だけど……別に…それでいいんだよな…」
「…はあ?」
もう…腐れ縁を切ってやった方がいいんだろう
たまに会う位の…昔の腐れ縁が
お互い楽なんだろう
「……やっぱ…日曜日…いいわ」
「………はっ?!」
「…悪かったな」
別に…
ほんとにユウとシュウがそうなるかなんて分かんないし
シュウが…ユウを泣かせるとかないだろ
シュウの上から退いて寝転がる
もういいから、さっさと帰って欲しい
「…帰れる訳ねぇだろ?」
「何で」
「お前が、いつもの悪魔じゃねぇから」
いつもの悪魔って何だよ
お前、悪魔がいいのかよ
「………っそ…好きにしろ」
そう言ったら
「はぁ…んじゃ…」
朔が後ろから抱き締めてきた
何でだよ
とっとと帰れよ
俺に…その…
「…匂い…付けんな」
「だから、何の匂いだよ?」
ムカつく
分かっててやってんじゃないの?こいつ
「…なんで今日に限ってそんな…」
「お前…腹立つ…」
「あ?だから、謝って話したいんだってば」
そうじゃねぇよ馬鹿!
「お前…腹立つ……全部…脱いだら話してやる」
「………え?」
帰らないなら
俺の傍居るなら
さっさとその、ほっとけない先輩の匂いの付いたもん
全部脱げよ
「はぁ…分かった分かった。どうせ全部見られんだ。脱ぎゃいいんだろ?」
馬鹿が言う事聞いて脱ぎ出した
本当に馬鹿だ
こんな理不尽な命令聞く必要ないのに
怒ってないって言ってるのに
起き上がって、馬鹿が脱いでんの見ると
「何だよ?ちゃんと脱いでるって…ってか、お前も上着くらい脱がないと、皺になんぞ?」
何なの…こいつ
こんなに訳分かんない事言ってんのに
悪魔だって言ってんのに
こいつには
皆には見せない最悪なとこばかり見せてきてる
一切気なんて遣わないから
そりゃ悪魔って思うだろ
悪魔の上に
勝手に自分の周りに干渉してくんだから
さぞかしウザいだろ
なのに…
なんでお前
俺の言う事聞いて制服脱いで
俺の制服の心配なんかしてんの?
俺の言う事聞いて…
先輩の匂い脱ぎ捨てて…
「……え?」
何なの?お前…
せっかく制服脱いだのに
抱き付いた朔の髪から
さっきの匂いがする
「お前の髪…嫌い」
「あ?」
「匂い…残ってる」
「…大和…さっきから言ってる匂いって、何の匂いなんだ?」
ここまで言って気付かないって
ほんと馬鹿なんだな
服脱いだら…
朔の体は朔の匂いだ
昔から知ってる
朔の匂い
「えっと…シャワー浴びてないから…服脱いでも…臭いもんは臭いと思うけど?」
ほんとに気付かないんだな
本物の馬鹿だ
「……馬鹿朔…お前の匂いは、いいんだよ」
どんだけお前の匂い嗅いで
今さら臭いとか言うと思っての?
ようやく意味の分かった馬鹿が
「え?そんなに匂いなんてする?先輩ん家…そんな変わった匂いなんてしなかったけど…」
とか言ってる
「そんな変わった匂いしないのに…付くだけの事…したからだろ?」
あんな時間に
ほっとけない状態の先輩ん家行って
こんなに匂い付けるだけの何して来たんだ?
けど…
そんなの俺が気にする事じゃなくて
朔にしてみたら
気になってるとか、憧れてるとかの先輩だったのかもしんないし
男なんだから、あり得ないけど
けど
なんか知らないけどこいつ
男に好かれるし
好かれても…別に…
あんな事されたってこいつは…
「お前は…昔からそうだ」
「はあ?」
「お前の事なのに…お前は…どうでも良くて……お前の事なのに…俺が…」
「…大和?」
なんっなんだよ
何なの俺…
何でこんなモヤモヤしなきゃなんないの
こいつが
こいつが…
「~~~~っ…同じ事しろ」
「は?同じ事?」
「その…先輩としてきた事…しろ」
何言ってんの俺?
頭…おかしくなったのかな
そんな事してどうすんだよ
「別にいいけど?」
「~~っ…いいのかよ」
訳分かんない
俺もこいつも訳分かんない
「あ?訳分かんねぇな…どっちだよ?」
俺も訳分かんないだよ…
「大和…とりあえず、上着脱がせるぞ?」
「……好きにしろ」
何だよ…
しっかり脱がしてんじゃん
上着…脱がして
ネクタイ外して…
けど…
朔が何かされたんじゃないんだな
じゃあ…
朔は泣いてない
「あ~…じゃあ、抱き締めるけど…いいのか?」
「…いちいち聞くな」
「へぇへぇ…」
言葉とは裏腹に
すげぇ優しく抱き締めてきた
頭やら背中やら撫でてきて
こんなん、たまたま会った先輩にしたの?
朔なんだから
あんな時間に家まで行って
こんなんしたら…
何してきたんだよ
……………
こいつ…
これで終わらせようとか思ってる?
これで誤魔化そうとか思ってんの?
「…この後の事…早くしろ」
「この後の事?……って?」
「下手な芝居すんな…さっさと続きをしろ」
「続き…続きは…先輩、落ち着いたから、少し話して帰って来たんだよ」
じゃあ、何の為に上着脱がしてネクタイ外したよ?
ふざけやがって
「…へぇ...馬鹿のくせに、嘘吐くのは一人前か」
「嘘じゃねぇよ!なんで俺が先輩と…」
「朔だから…」
なんか知らないけど
お前…男に人気じゃん
すぐ手出されるじゃん
「とにかく…俺は先輩を慰めて来ただけだから…」
慰めるって言ったって
色んな方法あんだろが
言いたくないならもういい
「その先輩とはしなかったって言う…続き…お前が…俺にしろ」
何になる?
それをして何になる?
なんでそんな要求すんのか
頭がバグって
俺の頭…すっかりおかしくなったんだ
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