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なんで…泣きたくなるんだろ

ある日の学校帰り 「ユウ…悪いんだけど…ちょっと用事があって…帰り遅くなる」 「あ、分かった。先に帰ってるな」 「うん…ごめん」 なんとなく 言いづらそうにしてて… 少し気になった 「シュウ君遅い~~!もう!何やってんだろ!」 「四葉…シュウは、別に自分の家で、好きな様にしてたっていいんだよ?善意で俺達の晩ごはん作るの、手伝いに来てくれてるんだから」 「違うもん!ユウに会いたくて、ついでに手伝ってくれてるんだもん!」 「まあ…どっちにしても、そこはシュウの勝手なんだから、文句言わないの」 「ぶ~~~!」 だけど、大和が帰って来て 「ん?シュウは?」 父さんと母さんが帰って来て 「あれ?シュウ君は?」 もはや、シュウは俺の家族の一員になってて そりゃ、四葉がぶーたれるのも仕方ないか 帰って来たら顔出すんだろなと思ってたシュウは とうとう、その日 来なかった そして… 「ごめん、ユウ…今日も用事があって…」 「……うん。分かった」 登校の時 何か話してくれるのかなと、思ってたけど 一切昨日の話は出なかった ごめん…って言うシュウの顔が辛そうで なんだか…聞けなかった その日帰ると、四葉は、もう許せん!と興奮し 大和は、不審そうにし始め 父さんと母さんは…なんか、しゅんとしてた さすがに俺も… ちょっと寂しくなってきた 今日も…来ないのかな コンコン 「ユウ…ちょっといい?」 「うん」 大和が来てくれた なんか…そんな気がしてた 「ユウ…大丈夫か?シュウと何かあった?」 「……ううん…何もない…と…俺は思ってる」 「今朝、何か話さなかったのか?」 「うん…特に…何も…」 「ユウから…聞いてみなかったのか?」 「シュウが…用事あるって言ってくる時の顔が…なんか…辛そうって言うか……なんか俺には言いたくないんだと思って…」 「そっか…」 シュウが話したくないなら 聞かれたら困らせる 別に… 会えなくなった訳でも 話せなくなった訳でもないんだし 「明日もそうなら、朔にちらっと聞いてみるよ」 「うん…」 「ユウ…一緒に寝ようか?」 「ううん…大丈夫。ありがとう大和」 明日もそうなら… 明日も… 毎日会って話してるのに なんで、こんなに寂しいんだろう… 次の日も シュウは、特にそういう話には触れず いつも通り学校に着いた なんとなく… 帰りの予想がついた シュウと別れて、教室に入ると 「ちょっと!穂積!」 「え?」 「ちょっと!ちょっと!こっち!」 「何?」 教室に入るなり 何人かの奴らに、教室の隅に連行される 「お前…東雲の彼女の事聞いたか?」 「……え?」 一瞬… 頭がフリーズした 東雲の彼女… シュウの…彼女? 「知ったかぶんなよ!教えろって!」 「いや…俺は…」 「3年の、あの岩城先輩なんだろ?!」 「いわき?」 「なんだ?お前…ほんとに知らないのか?」 「知らないってば…」 「っんだよ~…あの、エッロい先輩との、あんな事やこんな事、聞き出してもらおうと思ったのに~~」 エッロい先輩… 岩城先輩? シュウの…彼女? 「大丈夫か?穂積…なんだかポカンとしてんな?」 「東雲の彼女の話知らなかったのか?」 「うん」 「マジか?!今日見せたる!岩城先輩見せたるから!超色気振り撒いてるから!」 「そうなんだ…」 へぇ… シュウ…彼女出来たんだ そっか 一応、俺の事好きとか言っちゃったから 俺に、言いづらかったんだ 良かった 俺は、シュウと同じ気持ちにはなれないから ちゃんとシュウの事、好きな人が彼女になって 良かった…… 昼休み… 「あっれ~?岩城先輩居ないなぁ…」 「東雲んとこにも居なかったしな」 「2人してどっか行ってんのかな」 こそこそと3年のクラスまでやって来たのに 結局見付けられず 何故だか、少しほっとした気持ちで 教室に戻ろうかと思うと 「ちょっと探してみようぜ」 「2人で怪しい事出来そうなとこ、行ってみるか」 「え…いいよ。もう帰ろうよ」 「いいから、いいから」 全く気が進まないのに 体育館だの、空き教室だの 校舎の外にまで行き出して 「ねぇ、俺もう戻るよ」 「はあ?何でだよ?」 「もうちょい人気(ひとけ)のないとこ行ってみようぜ」 気が重い シュウが…彼女と居るとこ… そんなの…見たくない 「ちょっと…静かに…」 「何?」 俺を連れて来た奴らが 急に小声で話し始めた 「なんか…聞こえてくる」 「なんかって?」 「いいから、静かに…この角曲がった方から…」 「マジで?」 そ~~っと、そ~~っと 1人2人と、角に近付き、覗いている そんなの、シュウかどうかなんて分かんないのに ドキドキする 見に行った奴らが 固まった様に動かない しばらくして、ようやく動き出す 近付いた時と同じ様に そ~~っと、そ~~っと こっちに戻ってきた奴らが ジェスチャーと口パクで ヤバい…行けと言って来る そんな誰かのヤバいのなんて 見たくないのに 押される様に、引っ張られる様に 仕方なく、音を立てない様に 角へと近付いて行く 曲がり角の、その先には… 男女が…抱き合ってる様な… いや…女の人が、男の人を壁に押し付けてる 女の人の後ろ姿で 男の人の顔は見えない 「ん…はぁ……先輩…もう…」 え? この…声… 「気持ちいい?もっと…気持ちいい事しよ?」 女の人が 自分のネクタイを緩めて、シャツのボタンを外しながら シュウの…ネクタイを緩めて… シャツのボタンを外してく 固まって動けなくなった俺を 一緒に見てた奴らが ツンツンと引っ張って 戻される 皆…無言で 音を立てずに他の奴らの元に戻ると 待ってた奴らが ジェスチャーで、行こ行こ…としてて… 俺達は、その場を去った すっかりグラウンドの側まで来ると、ようやく 「っはぁ~~…びっくりした」 「な、な、俺達は、すっげぇキスしてるとこ見たけど、お前らは?」 「岩城先輩が、ネクタイとシャツのボタン開け始めて…」 「うえっ?!マジ?!」 「東雲のネクタイとシャツも開け始めたとこで、ヤバいと思って退散した」 「マジか!見えた?!岩城先輩の…見えた?!」 「見えねぇよ!あんなとこで見えてたら、マジでヤバいから!」 皆…凄い盛り上がってる 全然…そんな風に話せない だって…今もまだシュウは… あの先輩と…… 脱いで…それから? 「な?!穂積!」 「え?」 「え?じゃねぇよ!超エッロい先輩だったろ?」 「あ…ああ」 「いいなぁ…あんなエッロい先輩と付き合ってみたい!」 「俺も!今頃、東雲は……いいな~~!!」 いいなぁ…って 普通思うんだ やっぱり俺、おかしいのかな 「ああ!あんなん見たら興奮する!」 「いや、マジで…あそこで退散出来た自分を褒めてやりたい」 「だな…こんなとこで勃ったら、ヤバい」 勃ったら… あれを見て… そんな気持ちにはならない だって… なんか…凄く… キ~ンコ~ン カ~ンコ~ン 「あ、予鈴だ。戻ろ戻ろ」 「あ~~…いい時間だった」 「だな…いいもん見れたわ」 いいもん… なんで俺だけ、そうは思えないんだろう シュウの幼馴染みだから? 凄く…気持ちが沈んで… 今すぐ泣いてしまいたいくらいだ 「ユウ…ごめん…今日…」 「分かった!いちいち言わなくてもいいよ!じゃな!」 そう言って、勢い良く立ち上がって 全速力で学校を出た シュウの顔見たら もう泣きそうだった なんで…こんな気持ちになるんだろう 「ただいま」 「お帰り~~!ユウ早い!」 「四葉、ただいま。早くて嬉しい?」 「嬉しい!」 「ふっ…ちょっと待っててな?着替えて来る」 「は~~い!」 階段を上り部屋に入り カバンを下ろす 制服の上着を掛けて ネクタイを外して…… シャツを… シュウは… 今もまた…あんな事してるのかな 別に… 前にも彼女居たんだし その時も…そういう事してたのかもしれないし たまたま俺が今日、見ちゃっただけで シャツを脱ぐと 上半身が裸になった ベルトを外して… ズボンを脱ぐと… パンツが出て来た シュウは… 全部見せてるのかな シュウは… 全部見てるのかな だって、キスしてた キスして…それから服脱いで……… 「っ…」 あれ… 「っ…っ……」 泣いちゃった 「~~っ…ふっ…うっ…」 なんで…泣きたくなるんだろ 「う~~…っ…っ…」 泣き止まなきゃ 四葉が待ってる ただでさえ心配してるんだ 泣き止んで いつも通り 「ふっ…うっ…」 深呼吸… たいていの感情は 深呼吸すれば落ち着くはず 泣いたり、怒ったり出来なかった 蓮の時の知恵だ 何も考えない 深呼吸だけ意識して… 「よし」 部屋着に着替えて 四葉の元へと向かった もちろん、四葉は激怒 大和も、ちょっと機嫌悪そうで 父さんと母さんは、ガッカリしていた コンコン 「ユウ…ちょっといい?」 「…ごめん、大和…もう眠くて…」 大和は、心配して来てくれるって分かってた けど… どうにも、今日見た事を 話す気には、なれなかった 不貞腐れた様に 早々に布団に入って丸まったまま答えると ガチャ え? 「眠いなら…眠るまで傍に居ていい?」 「……もう寝るから…話…しないよ?」 「いいよ…ただ、傍に居ていい?」 「うん…」 ベッドに腰掛けた大和が ゆっくりとしたテンポで 俺の背中を、布団の上からぽんぽんとする ほんとに…何も喋らずに 「………大和」 「ん…」 「ありがとう…」 「眠れる?眠れるまで…一緒に寝ようか?」 こんな歳になって、そんなの… あんなのに皆が興味持ってる歳なのに だけど… 今日だけいいかな… 「……眠れるまで…いい?」 「もちろん」 大和は、何も言わずに俺を抱き締めてくれて 大和の胸の中入ったら なんか分かんないけど とりあえず大丈夫って思えた とりあえず今は… 眠ればいいんだ…… それだけを考えて 俺は、大和の胸の中で眠りに就いた

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