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君が作った世界 俺が選んだ世界
「…と、言う事で…いやぁ...まさに波瀾万ですね~」
「これで、落ち着くのかは分かりませんがね。ははっ…」
ん…
寝てた
「でも、今こうやって、ご活躍されてますからね~」
「お陰様で…ですが、次があるなら、もう少し穏やかな人生にして欲しいですね」
「確かに…私だったら、乗り越えられてたか、自信ありませんね~」
頑張って、おじさんになれるなら、頑張るよ
穏やかじゃなくてもいい
波瀾万丈でもいいよ
仕事するって、大変?
受験勉強って大変?
結婚したいって思うもの?
ずっと一緒に居たいって思える気持ちって?
「蓮…起きたの?お風呂入れそう?」
「うん」
「調子悪かったら、無理しないのよ?」
「ううん…大丈夫だよ」
あと何年…この家に居られるかな
あと何年…こうして皆と話せるかな
闘って…闘って…
それでも、郁人兄ちゃん…
そっち…行くしかないんだよね……
あれ……なんだっけ……
なんか、体動かない
だけど、凄く心地いい
俺…死んだんだっけ?
だから、体動かないのに
痛くも苦しくもないのか
こんなに心地いいのか
なんだ…
三途の川とか、お花畑とか…
何もないじゃん
夢の中に居るみたいだ
「…ん…ユゥ…」
ん?
誰の声だ?
誰か居んの?
ちゅっ…
?!!
なんか…おでこに、ちゅってされた!
しかも…男の声だったけど?!
え?
天使とか、神様仏様とか?
そういう儀式?
でも、こんな心地いいって事は
ここって、天国なのかな
天国は、天使のキスで目覚める的な?
日本人は、びっくりするよ?
ゆっくりと、目を開くと…
「…うわぁ……」
流石、天使…
めっちゃイケメン
そして、裸だ
あれ?
「羽…無いんだ」
「え?」
そう言えば、天使の輪っかは?
そういうの、やっぱ作り話なのか
「ユウ…大丈夫?…俺の事…分かってる?」
え?
あれ?
この声…この顔…
ユウ…
ユウ…って…
これ…
天使じゃなくて…
「ユウ…分かる?…蓮になってない?…分かる?」
「………シュウ」
そうだ
シュウだ
天国じゃない
天使じゃない
「ん…大丈夫?」
そうだ
俺…
「……~~っ…っ…」
「なっ…?!…ユウ…なんで、泣くの?」
そうだ…
俺…
「~~~~っ…生きてるからっ…」
「……死ぬ夢…見てたの?」
「ううん……蓮の夢…見た後…あんまり心地いいから…死んだんだと思った…死んだんだけど……っ…もう生きてた」
新しい人生始まってた
それは…
それはそれは…
幸せな人生…始まってたんだった
「っ…~~っ…シュウっ…」
「ユウ…泣かないで……結叶…」
「~~~~っ…っ…」
一気に、これまでの幸せな思い出が押し寄せる
こんな凄い人生…与えてもらっちゃってた
「ユウ…ねぇ…ちゃんと、ユウになってる?」
「んっ…なってるよ…シュウ……目覚めたら、幸せな人生始まってて…ははっ...すごっ…」
「…びっくりした……寝惚け過ぎ…びっくりさせないで」
「ごめん…なんか…体だるくて、あんまり動きたくないな」
体、動かないんじゃなくて
動かしたくないくらい、だるかったんだ
「ユウ…体…だるいだけ?痛いとこない?」
「痛いとこ……ないと思うけど?」
「ほんとに?中…何処か痛くない?」
「……別に…痛くないけど?」
「はぁ…良かった……無理だって思ってたのに…ちょっと止められなかったから…はぁ~…ユウ…」
なんだか、深く息を吐いて
シュウが、ぎゅっと抱き締めてきた
「無理だって?」
「普通…もっと時間かけないと、入らない……入っても…いきなり全部なんて、無理矢理過ぎる」
「…そういう…もんなの?時間って?何時間も、あんなのされたら、ムズムズ我慢出来ないよ」
「そうじゃなくて…何回か、ああやって…少しずつ解していくんだ…と、思ってたから…」
何回か…
それ、すっ飛ばしたのか
そう言えば、記憶の端のシュウが
なんだか、凄く焦ってた気がする
「なんか……なんかさ……」
徐々に、曖昧な記憶が
途切れ途切れに、思い出されてくる
「ユウ?」
「っ…~~~~っ…なんか…俺、すっごく変じゃなかった?!変だったよな?ちょっと…あっ!シュウのアソコ!…大丈夫?お風呂…洗った方がいいよ!」
「ユウ……ふっ…大丈夫…俺の方の心配はしなくていい。ユウの体の心配して」
「え?もう綺麗にして来たの?俺の体は……すっげぇ疲れてるだけ……?」
なんで、疲れてんだっけ?
シュウの上乗っかってる時は、確かに頑張ってたけど…その後、横になってシュウに任せてたぞ?
「マッサージ…する?」
「え?いや…マッサージするなら、シュウじゃない?俺は、ただ横になってたんだからさ」
「ただじゃない…ずっと堪えてたから……多分…今までにない…強い刺激にユウ……ずっと堪えて、全身力、入れっぱなしだったから…」
「ああ…なるほど」
そういう闘いね
そんなんで、こんなにダメージ受けてんのか
「はぁ…鍛えなきゃなぁ…」
「ユウ…ほんとに、中…何ともないの?痛いとこ…ほんとに、ない?」
「ないってば。痛いなんて、少しも思わなかったよ」
「………凄いね」
何が?
もしかして、あそこん中だけ、めちゃくちゃ強いとか?
「シュウ…なんか…そんなつもりじゃなかったんだよな?大丈夫だった?」
「俺は………~~~~っ…凄く…気持ち良かった」
うわ…
めちゃくちゃ嬉しそう
「ははっ...じゃあ、まあ、いっか」
「ユウ…」
「んっ…」
シュウが、もっかい、ぎゅ~~ってして
「凄く…嬉しかった……幸せだった」
「ん…俺も、あんまりちゃんと覚えてないけど…とにかく、幸せな気持ちだったのは、覚えてる」
「ユウ…ありがとう」
「ん?」
「ユウ……す~~~~…はぁ…す~~~~…はぁ…」
なんか…
深呼吸し始めた
「シュウ?どうした?」
「ユウの匂い…す~~~~…好き…」
「俺も、シュウの匂い好きだよ」
「いつもと違う…いつもより、ユウの匂いする…」
「え?あ…裸だから?ってか…汗臭くない?」
「ユウの汗の匂いも好き…す~~~~っ…」
「んっ…」
首の辺りの匂いを嗅いでたシュウが
耳の後ろの辺りを嗅ぎ出して…
「シュウ…頭は、さすがにヤバいって」
「ん…ユウの汗の匂い…凄いする」
「だから、ヤバいってば」
「これ嗅いだまま…寝れる」
「え…」
ちょっと…
この子、大丈夫?
なんか、ヤバい方向に進んでない?
クンクン…クンクン…
「ちょっと…シュウ…」
クンクン……クンクン……
「もう、いいだろ?」
クンクン………クン…クン……
ん?
す~~…す~~…
これは…
匂い嗅いでんじゃなくて…
ほんとに、寝た!
「シュウ?」
「………ん」
「ふっ…シュウも、疲れたよな」
蓮として、死んで
その後…何処行ったのか
どうなったのか
全然覚えてない
ほんとに、天国なんてものがあったのか
有名な三途の川を渡ったのか
だけど、蓮として生きてた記憶
思い出す度に思う
今が、どれだけ幸せか
そして、今になって思う
蓮だって、何か出来た事、あったのかもしれない
小さな頃から、諦めなきゃならない事が、多すぎて
そのうち、何かに憧れたり、何かに執着する事を、無意識的に避けてた気がする
何かしてみたい、行ってみたい
そう言う度に
そうよね…でも、ごめんねって
申し訳なさそうに、母さんが謝るから
だけど、それでもきっと
何かを見付ける事は出来たんだ
例えば、葵や四葉みたいに、夢中になれる物
本でも、絵でも、音楽でも
横になってたって、出来る物の中で
少しでも、惹かれるもの
きっと、それを見付けたら
蓮の人生の長さは変わらなくても
もっと楽しめたかもしれない
そしたら
それを見てる家族や、周りの人も
泣いたり、心配そうにしたりばかりじゃなく
嬉しそうに、笑ってたかもしれない
何かを見付ける事を、諦めて
きっと何処かで、夢中になった何かを
手離す事を、恐れて…
おんなじなのに
生きてる時間は、おんなじなのに
それでも、蓮なりに一生懸命生きたつもりだったんだけど
その時は、気付けないんだよな
「ねぇ、蓮」
「何?」
「蓮のライバルは、どんな人がいい?」
「ライバル?」
「うん。親友と、ライバルと、喧嘩相手と…」
「喧嘩相手も居るの?」
「そうだよ。盛り沢山なんだから。もうね、毎日泣いて笑って、落ち込んで、励まされて、また元気になって、いっそがしいよ!」
「ははっ...それは、忙しいね」
「うん!」
ああ…
今になって、分かるよ葵…
葵は…俺が、めちゃくちゃ頑張って生きてる物語を、作ってくれてたんだね
喧嘩相手なんて、いらないよ
もっと、穏やかな人達と、楽しい生活にしてって、思ったけど
俺が出来なかった事、沢山詰め込んで
生きてるを、感じる物語…作ろうとしてくれてたんだね
「……ん……寝てた?」
「ふっ…うん。ちょっとの間ね。よく、そんな汗かいた頭ん中で、眠れるな?」
「ん…ユウの…匂いだから…」
まだ、眠そうな顔
天使って間違われても、おかしくない、こいつは
親友で、幼馴染みで…恋人で…
「俺さ…この世界、選んで来たのかも」
「……ん?」
「死んだ後の事、覚えてないけど…もしかしたら、パラレルワールドみたいに、幾つもの世界があってさ、選べるのかなって…」
「……選べる?」
まだ少し、ぼ~~っとしてるシュウが
不思議そうな顔して、聞いてる
「そう。俺は…葵が作ろうとしてくれてた世界によく似た、この世界を選んで、生まれて来たんじゃないかな…とか…思ったりして」
「……よく…分かんないけど、俺が居る世界、選んでくれて良かった」
「うん。波瀾万丈結構!毎日、忙しいくらい、一生懸命生きてやる!」
突然の、意味不明な決意表明を
じっと見て、考えてたシュウが
「うん…俺もユウと一緒に、一生懸命生きる」
そう言って
寝起きなのに、イケメンな笑顔を向けてくれた
蓮の人生があったから
今の俺があって
後悔も沢山あるけど
沢山の事を学べた
次は、もっと穏やかな人生を選ぼう
そう思えるくらい、結叶の人生を一生懸命生き抜いてやる
だって、自分で選んだ人生かもしれないんだから
~~~~エピローグ 消えた記憶~~~~
「次?次は、えっと……」
「君の大切な人も、一生懸命作ってるよ?」
「え?」
「誰でも作れる。君も作れる。無限にあって、誰かと誰かのものが、重なり合って…だから、思い通りな事も、思い通りではない事もあるんだ。さて…どうする?」
「……妹が作ってくれたのがいい」
「それは…未完成で、いびつな物として、誰かのものと合わせられるよ?」
「いい…何も…出来なかったから……少ししか、一緒に居られなかったから…少しでも…妹を感じたい」
「記憶は、全て消えてしまうよ」
「それでも…今だけでも…俺の自己満足でしかなくても…葵が少しでも入ってる世界がいい」
「分かった…また、ここに戻って来た時には、全て思い出すよ。さあ……目を閉じて」
ありがとう…葵
こんな兄ちゃんの為に
次に生きる世界、作ってくれて
葵に何もしてやれなかったのに
いつも、貰ってばかりで
寂しい思いさせてたのに
葵は、最高のプレゼントまで、用意してくれてた
未完成でも
葵の事忘れてしまっても
きっと、一生懸命生きるから
泣いて笑って、いっそがしい毎日
送ってみるね
親友と…ライバルと……喧嘩相手と……
end
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