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第8話

 今夜は珍しく休みが被り、大学のあとご飯を食べに伊賀良の家に寄った。  二人とも万年金欠なので伊賀良が手料理を作り、代わりに真夏はスーパーで酒を買い込んだ。  テーブルに並んだ料理を見てうっとりする。唐揚げ、きゅうりのピリ辛和え、ちくわのマヨネーズ炒め、枝豆にポテトサラダ。  どれも真夏の好きなものばかりだ。  「どんどん料理の腕があがってるな」  「まぁ毎日作ってるからね」  「それに美味い。これならすぐ店出せるよ」  「真夏に言ってもらえると嬉しい」  伊賀良の夢は調理師になることだったが、両親に拒まれたらしい。施設にいたとはいえ、伊賀良の両親は存命で将来の決定権を持っている。  「一緒に住んでないくせにこういうときだけ親面するの辞めてほしい」とよく伊賀良はぼやいていた。  だからせめて近いもので職に就こうと居酒屋に就職したという経緯がある。  「それに比べて真夏はすごいよな。大学通ってバイト二個掛け持ちして」  「有希ちゃんがお金遺してくれたからさ」  「それでもそんな簡単にできることじゃないよ」  伊賀良は枝豆の殻を捨てる箱をチラシで折りながらふわりと笑った。  「ほら僕は不遇の子だからさ」  「またそんなこと言う」  「だってそうだろ。施設に入ったら一年以内に親元に帰るか里親に貰われるかなのに僕は十年間、誰の元にもいかなかった」  でもそれは有希も同じだった。親戚中をたらい回しにされた問題児姉弟として有名だったのかもしれない。  だからといって施設で暮らしたことを不幸だと悲観したこともなく、そんな空気を悟られていたのだろう。  伊賀良は枝豆の殻を剥いて、皿にのせてくれた。  「じゃあ恋人作らないとな」  「好きな人はできた」  「……まさかアタックしまくってないよな?」  「押して押して押しまくってドン引きされてる」  「なんで真夏はそんなに押しが強いんだろう」  「恋の駆け引きとかよくわからないし」  昔から一つのことに熱中するとそればっかりになってしまうところがあった。  消しピンにハマれば色んな種類の消しゴムを買い揃えてどれが最強か研究したし、短距離走にハマれば所構わず走り出してよく職員を困らせていた。  「その人が気の毒で仕方がないよ」  「僕に惚れてもらって光栄に思ってるといいけど」  「このポジティブさはどこからくるのかね」  こうなったら止められないのも重々承知している伊賀良は唐揚げを摘んで溜息を吐いていた。

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