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二度目のはじめまして(5)

 僕の父は、僕が小学生の頃に借金を残して蒸発している。  美容師だった母はオメガで元々身体が弱かったことと、父の借金を返すために働き詰めだったこともあって、僕が高校3年生のときに病気で急死した。  母の兄である叔父が後見人になってくれたが、世間体のためか、僕を養護施設には入れず、「通学が遠くなるから」という理由を建前に、母と住んでいたアパートで一人暮らしするよう言われた。叔父には大学生の息子と娘がいるし、引き取らなかったのはおそらく僕がオメガだからだろう。  人には男女の性別以外に、α(アルファ)β(ベータ)Ω(オメガ)という第二の性というものがある。  アルファは生まれながらに身体的・能力的に優れた人間が多く、生殖能力においてもそうだと言われている。オメガは小柄で様々な能力が平均より劣ることが多いが、男でも妊娠でき、定期的に発情期(ヒート)というものがあって、発情期(ヒート)中はフェロモンという甘い香りを発する。このフェロモンが男女の性別に関係なくアルファもベータも誘惑するせいで、オメガは社会的に厄介者扱いされている。    母の生命保険は治療費と葬式代で底をつきたし、高校生になって始めたコンビニのバイトは、高校生は22時までと就業時間が制限されていた。土日も8時間しか働けないし、3か月に一度の発情期(ヒート)の間は1週間ほど休みが必要になる。叔父からの金銭的援助はなく、バイト代で家賃と授業料を払うのが精一杯で、いつもお腹を空かせていた。  おまけに、就職活動もうまくいかなかった。  高卒のオメガに、世間の目は厳しい。  履歴書に第二性別を書く欄はないが、配属を決める上で必要だからとかなんとか理由をつけて、面接では必ず訊かれる。夏から就職活動を始めて、秋に受けた二次募集でも非採用の返事をもらった段階で、母のように手に職をつければ就職先もあるかと考えた。  しかし、働きながら美容専門学校の夜間過程に通うにしても、入学金を工面する必要がある。叔父への借金は当然断られた。食費にも困る状況なので、少しバイトの時間を増やしたからって稼げる金額ではなかった。  思い悩んだ末に、僕は「援助交際」というものに手を出そうとした。  これまでも、男女問わず怪しい人に声をかけられることはよくあったから、自分が性的な欲望の対象にされやすいことは知っていた。実際、出会い系サイトにオメガの男として登録すると、すぐに何件か誘いが来た。その中から「まずは食事デートからどうですか?」と言ってきた比較的安全そうな人を選んで、会うことにした。  そんなときに、学校帰りに月城プロダクションの専務である月城朋也(つきしろともや)にスカウトされたのだ。  事務所に所属すれば、チラシのモデルくらいならすぐに仕事を回せるし、モデル代は日払いでくれるという。モデル代はコンビニのバイト代より遥かによかったし、援助交際よりは安全だろうと思って、出会い系サイトのほうは会うのを断り、事務所に話を聞きに行った。  食べていけるなら仕事は何だってよかったから、その後、ミュージックビデオの仕事をもらってたまたまそれがバズったのをきっかけに、美容専門学校に行くのはやめて高校卒業後もタレントの仕事を続けることにした。

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