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二度目のはじめまして(6)

 元々、人見知りで引っ込み思案だったのが、第二性別の判定でオメガとわかって以来、オメガだと気づかれるのが怖くて、余計に人との接触を避けるようになった。そんな自分にモデルやタレントが務まるか不安だったけど、母が忙しかったり友達が少なかった分、子供の頃から学校や家でよく本を読んでいたので、想像力だけは無駄にある。与えられた役を、その人がどんな人生を送ってきてどんな考え方をする人なのか、想像しながら演じる役者という仕事に、魅力も感じていた。  僕をスカウトしてくれた月城専務が、事務所でのレッスンの合間にわざわざ声をかけてくれて、明らかに目をかけてくれているのがわかるのも、励みになった。  社長の息子である専務は、30才とまだ若く、専務という地位にいるにも関わらず現場にもよく顔を出しているらしい。自身でもモデルや俳優が務まりそうなほどにスラリと背が高く、顔も整っている。見るからにアルファなのに他のアルファのような威圧感はなく、少し目尻が下がった目元からは甘い印象を受け、分け隔てなく誰に対しても物腰が柔らかい。  そんな誰もが憧れる雲の上のような人から声をかけられると、いつも舞い上がってしまって、まともに受け答えもできなかった。 『メディアの前では、柿谷夏希(かきたになつき)というタレントを演じればいい』  と専務が言ったのは、僕のコミュニケーション能力があまりに壊滅的だったからだろう。僕は真顔でいると取り澄まして人を小馬鹿にしているように見えるらしく、メディアの前では常に笑顔を絶やさず、共演者に甘えるような言動をしたほうがいい、とも言われた。  バラエティの仕事が入るようになってからは、キャラ作りの参考にするようにと、マネージャーから、最近はあまりテレビで見なくなった先輩タレントのVTRを渡された。  そのお陰で、世間の人達からは『あざと可愛い系小悪魔男子』と言われて、それなりに人気も出て、俳優2年目にして、初めてドラマの主演に抜擢されたりもした。  だが、四六時中、演技を続けることは難しい。反動で、キャラを作ることに疲れてしまって、メディアの前と違って、普段はろくに挨拶もせず、自分から話しかけることもしなかった。その所為で共演者やスタッフからの評判は悪かったらしい。  そのことを教えてくれたのも、あの人――三間晴仁(みまはるひと)だった。 「では、本番行きまーす! 5秒前! 4! 3! ……」  ADさんのカウントダウンが始まる。  横顔に視線を感じた気がして、ふとそちらへ視線を向ける。  ひな壇の少し離れた場所にいたのは、他の番組(ドラマ)の出演者たちだった。その中には三間もいる。  彼がこちらを見ていたはずはないから、視線を感じたのは僕の気の所為だろう。    カメラが向いていないところでも背筋がしゃんと伸びていて、相変わらず姿勢がいい。時代劇に出る際に正座が綺麗に見えるよう、姿勢については普段から気にかけていると言っていたことを思い出した。  ふたたび、失ったはずの二年間に思考を引き戻されそうになり、僕はそっとモニター画面に視線を戻した。  二度と会いたくなかった。  そう思っていたことは事実。  でも、それとは異なる気持ちが、あの暗闇の中で見た小さな光のように、胸の中にあることも自覚していた。

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