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今度は兄貴肌?(1)

 記憶が正しければ。おそらく僕は、一度死んでいる。死ぬのは、今から半年ほど先の話だ。  「未来で死ぬ」という言い方はおかしいけど。  一度目の人生で、僕は何者かに階段から突き落とされ、頭を強打し意識を失くした。気が付いたときには暗闇の中を子供に手を引かれて歩いていて、途中で子供はいなくなり、僕一人が出口と思われる光の中へと吸い込まれていった。  またそこで意識が途切れ、次に目を覚ましたときには、二年半ほど時間が巻き戻っていたのだ。  おかしいと気づいたのは、そこが母と暮らしていたアパートだったからだ。高校卒業後はアパートを引き払い、事務所の寮に入っていたはずなのに。その上、頭には、痛みどころか傷痕一つなかった。  すぐに目覚まし替わりの携帯電話を開き、そこに表示されている日付を見て愕然とした。その日は、自分にとって節目となる日だったから、日付を見てすぐに何があったか思い出した。月城専務にスカウトされた翌日――、すなわち、月城プロダクションに出向き、モデルとして登録した日だったのである。  「時間が巻き戻った!?」というありえない発想が浮かんだのは、夢だと思うには、二年半の記憶があまりにも鮮明すぎたからだ。特に、階段から突き落とされ、頭をコンクリートに激しく打ち付けた瞬間の頭をかち割られたような痛みと衝撃は、思い出すだけで体が震え吐き気が込み上げてきそうな程だった。あれが夢の中の出来事とは到底思えなかった。  もしかしたら、頭を打ったあと死んではおらず、自分の体は植物状態で生き続けていて、時間が巻き戻ったと思っている今が夢の中にいるのかもしれないとも思った。けれど、頬を思いっきり抓ったら涙が出るくらい痛かったし、やっぱり、今が夢の中だとも思えなかった。  その後もしばらくは、本当に時間が巻き戻ったのか、あるいはリアルな夢を見ていただけなのか、自分でも確証が持てずにいた。見聞きすることの多くが既に記憶の中にあり、まるで自分が予知能力者にでもなったかのような既視感を繰り返すうちに、「時間が巻き戻った」という結論に達した。  あの日から二年間。僕は二度目の人生を生きてきた。  例えば、オリンピックで誰が金メダルを取るかとか、ドラマや映画のストーリーだとか。そういった世の中の出来事は、記憶の中と寸分(たが)わずに繰り返される。  けれど、自分自身に関することは、一度目と二度目では大きく違っている。  それは意図的に、一度目の人生をなぞらないようにしているからでもある。  その最たるものが、今回はベータだと偽って、俳優になったことだ。

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