10 / 85

今度は兄貴肌?(2)

 高校卒業を控え、卒業後もそのまま月城プロダクションに所属し、俳優を目指すことを決意した僕は、事務所の面接を受けた。  本来なら、法律では就職時の面接で第二性別を聞いてはいけないことになっているが、それはあってないようなものらしい。一度目のときと同様に、「タレントの体調管理やスケジュールを調整する上で、どうしても必要なことなので」と前置きし、第二性別を訊かれた。  僕は元々、話に聞く他のオメガほどには発情期(ヒート)が酷くないので、強めの抑制剤を使えば発情期(ヒート)を誤魔化せる自信があった。  一度目の人生でも、どうしても仕事を休めないときは、強めの抑制剤を使って香水で香りを誤魔化し、仕事をすることもあった。抑制剤を使うと眠気が酷くて格段に集中力は落ちるから、できれば休みのほうがいいけれども。そこまでのハードスケジュールでなければ、どうにかやれないことはない。  そのため、ベータだと答えた。  偽った一番の理由は、おそらく、自分がオメガでなければ、殺されることもなかったからだ。  それに、いかにもオメガであることを前面に押し出したようなタレントとしてのキャラ作りも、一度目の人生で後悔していることの一つだった。お陰で「あざと可愛い系小悪魔男子」なんて言われて、それなりに人気も出て、雑誌モデルからバラエティタレント、俳優へとトントン拍子に階段を昇ることができたけど、実力や経験が人気に伴っていなかったように思う。  生き直すのなら、今度は無理してキャラを作ろうとせず、表と裏のギャップのない素の自分でいたかった。そのためにも、ベータと偽ったほうが、事務所の方針を押し付けられずにすむのではと思ったのだ。  その分、挨拶とか礼儀とかの最低限の社交性だけは、普段から心がけるようにした。  はたして狙い通りにはなった。  一度目のときのように、バラエティ用のキャラを押し付けられることはなかった。その反面、事務所からの期待が一度目のときと比べて薄いのは、仕方のないことだろう。  月城専務も、今回は面接のときに会った以降、一度もレッスンを見に来てくれたことがない。専務は初めて僕に優しくしてくれたアルファで、スカウトされたときから、遠くからひと目見られるだけでも嬉しい気持ちになっていたから、それだけが残念でもあった。  素の僕はバラエティ向きのキャラじゃないから、当然、一度目のときのようにバラエティの仕事は入って来ないし、俳優としても完全に無名。1年目はコンビニのバイトを続けながらたまにモデルやミュージックビデオなんかの映像の仕事を引き受け、あとはレッスンとオーディションを受けまくる日々だった。  一度目のときと同じオーディションを受けていたので、監督や演出家の求めるものはなんとなくわかる。お陰で毎回、何かしらの役はもらうことができ、端役から脇役へと徐々に出演時間も増えていった。  大きな誤算だったのは、三間晴仁(みまはるひと)との共演を回避するために選んだ次の仕事で、何故か三間と相見(あいま)えることになってしまったことだ。

ともだちにシェアしよう!