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今度は兄貴肌?(3)

 NG大賞の収録の後も、大晦日までは何かと忙しくしていて、お陰で余計なことを考えずにすんだ。  年が明けてからは、叔父の家に形ばかりの年始の挨拶に行き、その帰りに近所の神社で初詣を済ませ、あとはずっと、家で台詞を覚えていた。  そうして、楽しみ半分、不安半分な気持ちで、1月5日を迎えた。今年の仕事始めである今日は、都内の映画製作会社のスタジオで、夏に公開予定の戦争映画『空を見上げて』の顔合わせと台本(ほん)読みをすることになっている。  一度目の人生と違って、今回はそれほど世間に顔が売れていないので、マネージャーが毎回仕事場まで送り迎えして帯同してくれるわけではない。白木さんが僕を担当してくれているが、専属ではなく、他にも何人か担当している。初めての現場とかでなければ、ちゃんと遅刻せずに仕事場に向かっているか、確認の電話が入るくらいだ。  今日は初日なので、白木さんも顔を出してくれた。彼が事前にマネージャー同士話を通してくれていたお陰で、ミーティングが始まる前に、主演である中島佑美(なかしまゆうみ)に挨拶することができた。  佑美(ゆうみ)さんは、声をかけ辛いほど美しい見た目に反して、さばさばした性格の気さくな人だった。初対面のときの、イタチの最後っ()のような失礼すぎる僕の挨拶も特に気にしている様子はなく、「私のことは下の名前で呼んでね」とまで言ってくれた。  しかし、その後、監督やらプロデューサーやら、廊下で誰かを見かけるたびに挨拶していたせいで、三間(みま)には挨拶する時間がなくなってしまった。頼りの白木さんも、他にも仕事が詰まっているようで、「ちゃんと三間さんにもこの前のことを謝罪するんだよ」と言い残し帰って行った。  広々とした会議室には、長方形を形作るように長机が並べられていた。  今日の参加者は主だったスタッフや役者で、全員が席についたところで、自己紹介を兼ねた挨拶が始まった。一人ずつ立って挨拶していく流れは、ドラマのときと変わらない。  全員が挨拶を終えたところで、台本(ほん)読みに移った。  佑美さんとその相手役である三間は、プロデューサーや監督と、長方形の角を挟んで隣り合う長机に並んで座っていた。三人用の長机だから、間に一人分スペースがある。  僕は彼らと向かい合う並びの末席に座っていた。見ようと思えば見える位置なので、台本に集中しようと思っても、目が勝手に二人の方をチラチラ窺ってしまう。  それはおそらく僕だけでなく、この場にいる二人以外の全員が、台本よりも二人に意識を向けているようだった。

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