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今度は兄貴肌?(4)

 三間晴仁(みまはるひと)は、190㎝近い長身にしなやかな筋肉を纏った、同じ男としては羨ましすぎる立派な体躯をしている。それに加えて今は、役作りのためか艶やかな黒髪が短く刈り込まれていて、元々シャープな顔の輪郭が更に凄味を増している。  男らしくすっと通った鼻梁と薄い唇。少し目尻の上がった切れ長の眼は眼光鋭く、月城専務のような『甘いマスク』とは対極にあるが、顔の全てのパーツと配置がすこぶる整っていることは誰もが認めるところだろう。    黒髪を肩で切り揃えた佑美(ゆうみ)さんと並んで座っていると、二人の周りにだけ、一昔前にタイムスリップしたような厳かな空気が漂っているように感じられる。台本(ほん)読みであっても役に入り込んでいるところは、二人とも流石だと思う。  三間は僕より6つ上だから、今年26才。佑美さんはその二つ上で28才。  佑美さんのほうが年上で、元々二人は同じ事務所の先輩後輩だった。  二人の初共演は今から3年前。佑美さんはその頃には既に人気女優に上り詰めていて、三間はほとんど無名だった。恋愛ドラマで彼女の相手役に大抜擢されたのは、佑美さんの強い後押しがあったからだと、以前ネットニュースで読んだことがある。佑美さんが後輩である三間を気に入って、目をかけているうちに男女の仲に発展したんじゃないか、とも書かれていた。  ドラマの放送期間中から三間が佑美さんのマンションを訪ねる様子が週刊誌にすっぱ抜かれていたけど、ドラマがヒットしたお陰でむしろ二人の交際を好意的に受け止め、二人を応援するファンの方が多かったらしい。「みまゆう」というカップルとしての愛称までつけられていた。  その後、ファンの期待に反してドラマの続編や別のドラマでの共演がなかったのは、二人が本当に付き合っているからだと噂されていた。恋人と人前で演技する気恥ずかしさは、なんとなく想像できる。  二人が共演NGなら、佑美さんが出演する作品を選べば、三間と鉢合わせすることはない。  正直なところ、この映画や監督にそれほど魅力を感じたわけではなく、僕がこの映画のオーディションを受けた一番の理由がそれだった。      顔合わせが始まったのが14時で、そこから台本(ホン)読みに移行し、時々休憩を挟んで、終わったのが夜の8時だった。そこから近くの居酒屋に場所を移し、親睦会と称した飲み会が始まった。佑美さんは明日は早朝から仕事が入っているとかで、飲み会には参加していなかった。  会議室にいる間は三間に声をかけられるタイミングがなかったため、今度こそと秘かに意気込んでいたが、三間の周りは僕とは一回り以上年の離れたベテラン俳優陣で固められていて、そこに混じる勇気はない。    映画初出演の僕には知り合いの役者やスタッフもいないため、テーブルの隅のほうで一人でちびちび烏龍茶を飲んでいたら、頭上で声がした。 「隣、いい?」

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