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繰り返される悲劇(7)
ベータだと嘘を吐いていた上にロケ先でヒート事故を起こし、内服すべきアフターピルまで内服していなかった。
社会人としても芸能人としても、自分が無責任で軽率すぎた自覚はある。
専務の口調は変わらず優しかったが、自己嫌悪で、絞り出す声は自ずと苦しげなものになる。
「アフターピルは飲んでいません。お金が……なかったので……。抑制剤も飲んでいたので、妊娠の可能性は低いと考えました」
嘘ではないけど。それが全てでもなかった。
日本に帰って来てそれなりに時間があったから、産婦人科を受診することはできた。お金も、苦心できないほど困っていたわけではない。アフターピルのほうが中絶の内服薬よりもずっと安いから、妊娠したくないのならすぐに受診したほうがよいこともわかっていた。
受診しそびれてしまった理由は、気持ちの根っこのところに、もしかしたら、一度目の人生で一緒に命を落としたはずのあの子に会えるかもしれないという期待があったように思う。
『ママがママらしく生きていたら、きっと、また会える』
暗闇で聞いた舌ったらずなあの言葉が、あの日から一日も消えることなく、ずっと僕の中にあった。
でも、だからといって、専務が言うように、それを武器に何かを変えたいわけではない。
「万が一僕が妊娠していたとしても、それを理由に三間さんに僕を選んでほしいとは思いません。三間さんに伝える気もありません」
万が一妊娠していたとして。産んで一人で育てる覚悟ができているわけではない。
でも、きっと、生きていればどうとでもなる。その根拠のない楽観だけが、一度目の人生とは大きく違っていた。
三間のことも。会えなくなれば、最初はテレビで見るだけでも辛いだろうけど。時間が経てば、いつかは純粋にファンの一人として、推しを好きだと思う気持ちに変わっていくと思う。生き続けてさえいれば。
専務はしばらくの間、無言でじっと僕を見つめていたが、僕の決意が固いことを見て取ったようだ。困ったように微笑み、軽く肩をすくめて見せた。
「ひとまず、記事が出たら反響を見て、三間君の事務所と映画の制作陣と対応について相談する。三間君は既婚者ではないからマスコミが殺到するようなことはないだろうが、君も芸能リポーターにインタビューを求められるようなことはあると思う。オメガだとわかった以上、都営アパートに一人で住まわせるわけにもいかないから、今日からオメガの寮に移ってもらう。今後のことについては改めて相談しよう。あと……、これから先は、三間君と個人的に連絡を取ることは控えてもらいたい」
面談が終わると思って気を抜きかけていた僕は、専務の言葉にふたたび表情を引き締めた。
「君たちの間で勝手に話が進むと、僕たちの手に負えなくなるようなことも起こるかもしれない。くれぐれも、これから先は個人で勝手に相談し、判断することは控えてもらいたい」
「はい。本当に申し訳ありませんでした」
僕はもう一度深く頭を下げ、ようやく面談が終了した。
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