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真相(1)
月城専務が所轄の刑事を伴って寮に現れたのは、三間の転落事故から一夜明けた、翌日の午後のことだった。
寮の各自の部屋には内線の電話があり、受付と繋がっている。
管理人に呼び出されて相談室に行くと、専務と、見知らぬ男性がソファに座っていた。
専務が、隣にいるその人は所轄の刑事だと紹介し、僕は促されてテーブルを挟んだ向かいのソファに腰を下ろした。
胸ポケットから取り出した警察手帳をチラリと開いて見せたその人は、年は50代前半くらい。ドラマに出て来る刑事のような鋭さはなく、白髪の目立つ中肉中背の冴えないサラリーマン、といった雰囲気の男性だった。
着古したスーツに、ネクタイは若干ゆるんでいて、シャツの襟元に汗染みが見える。
「三間君がテレビ局の非常階段から転落したんだってね。何者かに突き落とされたようだから、所轄の刑事さんが捜査をしていて、柿谷君に話を聞きたいそうなんだ。三間君は君と電話をしている最中に襲われたが、記憶が曖昧で会話の内容までは覚えていないらしい。それで君から話を聞きたいそうだ」
「あの……今日は白木さんは……」
こういうとき、普通はマネージャーが仲介するのではないかと思う。わざわざ専務が同行していることを不可解に思い、訊ねたところ、白木さんは他のタレントの地方のロケに泊りがけで帯同しているということだった。
「刑事さんが君に話を聞きたがっていると聞いて、私も気になってね。三間君が突き落とされたのは、もしかしたらあの記事と何か関連があるかもしれないと思ったから、私が同行することにしたんだ。記事の原稿は、既に刑事さんにも見てもらっている」
確かに、記事の話を聞いた直後にあんなことがあり、関連を疑いたくなる気持ちはわかる。
でも、まだ件の週刊誌は発売されておらず、あの記事は世の中に出回っていない。あの記事を知っている人となると、かなり範囲が限られてくる。
防犯カメラの映像によると、三間を突き落とした犯人は、長身でサングラスと帽子、マスクをしていて、見るからにアルファ然とした男だったそうだ。一度目の人生で僕を突き落とした男と、特徴は一致している。その時間帯に建物の中には1000人以上の人がいて、職員以外の外部の人間も多いため、それが誰かを特定するところまではいかなかったらしい。
それから刑事の質問に答える形で、あの日の三間との会話について、記憶を辿りつつ話せる範囲のことは話した。
「――そうすると、あのとき三間さんが非常階段に出たのは、たまたまだったんですね」
刑事に確認され、僕は頷いた。
確かに言われてみれば、その点も、一度目の人生の僕の場合とは異なる点だった。一度目のときは、僕は三間と、その時間にそこで会う約束をしていたけど、今回はたまたま、三間が電話中に外に出たタイミングで、誰かに突き落とされたことになる。
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