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真相(2)
「そもそも三間さんが受けていたインタビューは、とある番組のゲストに対するメッセージコメントで、サプライズ企画だったため、局内ではごく一部の関係者しか撮影のことを知りませんでした。その関係者の中には防犯カメラに映っていた犯人らしき人物と背格好が一致する人はいません。三間さんのマネージャーも同様です。誰もが自由に出入りできる場所ではないため、通り魔的犯行とも考えにくい。ただ、あの時間帯は観客を入れた公開収録をやっていたので、一般人向けの簡易の入館許可証を偽造し、一般人に紛れて侵入することも、業界関係者なら可能です」
刑事の「業界関係者」という言葉に、胸がざわつく。
顔も知らない人の恨みを買っているのも怖いけど、そんな人が身近にいるのも、気持ちの悪い話だ。
「その話を聞いて、一つ思い出したことがあるんだが……」
思案気に専務が口を開いた。
「女優の中島佑美 さんは、以前は三間君と同じアプローズに所属していたんです。個人事務所を立ち上げて独立したのは、結婚のためだとか世間では言われていますが、彼女と以前、話をしたときに、彼女がストーカー被害を受けていて、その相手が事務所の関係者かもしれないことも、理由の一つだと言っていました」
「「ストーカーですか?」」
僕と刑事の声が重なった。
「地方の仕事やロケ先のホテルに、毎回、彼女宛ての花が届けられたり、プライベートで外出する際に、誰かに尾けられている気配を感じることがあったそうです。宿泊先や彼女のオフの予定は、事務所の人間じゃないと知り得ないでしょう。今回のスキャンダル記事の内容も、事務所の人間なら、会話を盗み聞きしたり、あるいは盗聴器を仕掛けたりして、情報を入手することはできる」
「そのストーカーが、三間さんを突き落とした犯人かもしれないということですか……」
盗聴器については、そこまでするだろうかと疑う気持ちもあるが、でも、もしその人が犯人なら、わざわざテレビ局の入館許可証まで偽造して侵入したかもしれない人だ。自社の会議室やどこかに盗聴器を仕掛けていてもおかしくない気はする。
「佑美さんのストーカーが三間君を襲った犯人だとして、これまで三間君が無事だったのは、佑美さんが退社したことで、ストーカーも、一旦は彼女を忘れようとしたのかもしれない。でも、今回の記事のことを知って、佑美さんをないがしろにした三間君に対して、許せないという気持ちが働いたのかも……。君からの電話は偶然だったが、君からの電話がなかったとしても、事務所の人間であれば、何か理由を作って彼を非常階段に呼び出すことはできただろうからね」
その瞬間――、一度目の人生と今回の事件が、目には見えない糸で繋がったように思えた。
やはり、一度目の人生で僕を突き落とした犯人の本当の狙いは、三間だったのではないだろうか。
犯人にとっては、僕と三間のどちらが先にあの場所に来てもよかったのだと思う。三間が先に来ていたら、今回のように彼に危害を加えていただろう。
僕を突き落とした理由は、三間に濡れ衣を着せるためではないかと考えられる。子供ができた浮気相手が何者かに階段から突き落とされて命を落としたら、痴情のもつれの末に殺されたんじゃないかと、誰でも疑う気がする。実際に僕も、死に戻って三間と再会するまでは、彼が僕を突き落とした犯人じゃないかと疑っていた。
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