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いつかの、誰かが、見た景色(6)
「なつ、腰、浮かせられるか?」
胸の前で、くぐもった声がする。
意図を察して、僕は三間の体から降り、浴槽の縁 にもたれかかって、お尻を突き出すような体勢で上半身を湯から浮かせた。
胸から上はずっとお湯から出ていたのに、のぼせたように頭がくらくらする。
テラスの柵には竹製の目の粗いすだれがかけられていて、それを透かして崖下に広がる砂浜や、その先の穏やかな海が見える。
人や船は見える範囲には見当たらないが、やっていることと長閑な風景のギャップが、背徳感を掻き立てる。
三間が湯船から立ち上がり、ざぶん、と湯が揺れる音がする。
まもなくして尻の割れ目に、冷たい液体の感触がした。後孔の縁 が、きゅっと窄まる。
そのまま挿れられるとばかり思っていたので、僕は慌てて顔を後ろに振り向かせた。
「ちょっ……、お風呂でそんなもの使っていいんですか?」
「発情期 じゃないからあったほうがいいだろ? 口に入れても大丈夫なやつだし、風呂の湯は毎回入れ替えてる、つってたからいいんじゃないか?」
潤滑剤 を塗り込むように、ぬめりをまとった指に縁を撫でられる。
3本の指を一気に挿れられ、再び喘ぎを漏らすしかなくなった。
指が前後に動くたびに、ぐちゅ、ぬちゅ、という濡れた音が沸き立つ。
中でぐりんと指を回され、背筋がくねるように波打つ。後孔がキュウッと指を食い締めるのを感じた。体の中の異物が存在感を増し、それはとろけるような甘い充足感ともどかしさを、同時につれてくる。
欲しいものはそれじゃない。
もっと大きく、熱いもので、奥まで満たしてほしい。
そんな淫らな欲求が、一気に膨れ上がる。
「も……い……から……、はやく…………」
「ちゃんと最後まで言って」
指を引き抜かれ、全身がわななく。
「アっ、ぁあっ! ……っ…………!」
「……なつ」
低い声が、甘く掠れる。
演技でも聞いたことのない声で、三間が僕だけに向けるものだと、自惚れている。この二年間、焦燥と切なさの混じるその声で呼ばれるたびに、その事実が僕の中に浸透していった。
顔を振り向かせ、快楽の涙に濡れた目で見上げる。
「……はやく……晴さんが……、ほしい…………」
不遜な顔が、「よくできました」とでも言いたげに、ニッ、と片方の口角を上げる。
結局はこれを言わせたいがための演技なのではないかと、この瞬間だけは思ってしまう。
生涯の伴侶となり、番 となった今でも、彼の掌の上で転がされている感じは否めない。
あわいに、ふたたび冷たいゼリーの感触がする。
硬く勃ち上がったものが、ゼリーを自身に擦りつけるように、尻の狭間でぬるぬると上下に動く。触ってもいないはずのそれがいつのまにか臨戦態勢に入っているのも、いつものことだ。
放置されている後孔が切なく疼き、たまらなくなる。
蕩けきった後孔へ、ゼリーに濡れた先端を押し当てられた。
期待で、縁 が収縮し、熟れた粘膜が蠢くのがわかる。
焦燥と緊張に抗い、受け入れるために力を抜くことも、最初に比べたら随分と上手くなった。
怒張した雄が、ゆっくりと僕の中に入って来る。
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