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第24話『倉庫《静 side》』

「ありがとう。それじゃあ、次に行こうか」  ────という言葉を合図に、僕達は『BAR ジャスミン』を後にした。 外で待たせておいた車に乗り込んで二つ目の目的地へ向かいつつ、彰達に連絡。 というか、情報共有を行った。 普段は一日の終わりにまとめて報告するのだが、今回はかなり重要な情報を手に入れたので。 あと、画像の編集を頼みたいというのもあった。 『こっちは正直、手一杯だから』と思案する中、彰から返信が届く。 ただ一言、分かったと。  相変わらずクールだね、ウチの弟は。  などと思いながら、僕はスマホを仕舞う。 と同時に、車は停まった。 どうやら、目的地に到着したらしい。 『本当に休む暇もないな』と嘆く僕を他所に、扉が開いた。 すぐそこにある大きな倉庫を見据え、僕と兄は車を降りる。 その途端、どこからか狙撃された。 と言っても、被弾はしていないが。 「どうやら、ここがそうみたいだね」  足元にある弾痕を見やり、僕は『当たり』だと確信する。  今日はあくまで確認だけだし、このまま引き返してもいいけど、相手に勘づかれた以上悠長にはしていられないね。 出直している間に、|アレら《・・・》を他の場所へ移されたら困るから。 今、ここで決着をつけるしかなさそうだ。  『まあ、兄上も居るし、大丈夫でしょ』と考えつつ、僕は懐へ手を入れた。 「じゃあ、突入しようか」  筒状のものを取り出し、僕は倉庫に視線を向ける。 『正面突破でいいよね』と考える僕を前に、兄は少しばかり目を剥いた。 慎重派の僕らしくない行動に、驚いているようだ。 でも、直ぐに平静を取り戻す。 「スナイパーはどうする?」 「無視でいいよ。倉庫に入っちゃえば、あっちは撃てなくなるだろうし」  『中で保管しているものを傷つけないためにね』と語り、僕は一歩前へ踏み出す。 すると、兄が僕の首根っこを掴んで持ち上げた。 その瞬間、また狙撃が。 「ありがとう。おかげで、助かったよ」  自分の元々居た場所にある弾痕を一瞥し、僕はニッコリと微笑む。 と同時に、兄は首根っこを掴んだ手を離した。 「さっさとソレ投げろ」  僕の手にある筒状のものを顎で示し、兄はスーツの内ポケットから拳銃を取り出す。 『起爆はやってやる』と述べる彼を前に、僕は 「はいはい」  と、返事した。 そして、筒状のものを前方へ投げると、兄はすかさず拳銃を発砲。 見事、目標を撃ち抜いた。 「行くぞ」  兄は筒状のものから噴射された白い煙を見据え、走り出す。 なので、僕もそれに続いた。  発煙筒の改造版、なかなかいいね。これなら、スナイパーに居場所を悟られずに済みそうだ。 ただ、本来の方法と違う形で起爆したからか勢いが凄いね。  『本当は打ち上げ花火みたいに地面へ設置して、着火する仕様らしい』ということを思い返し、僕は周囲を見回す。 が、やはり白い煙しか目に入らなかった。 『これ、下手したら迷子になるんじゃ?』と一抹の不安を覚えるものの、兄は迷いのない足取りでどんどん前へ進む。 ────と、ここで足を止めた。 「倉庫の入り口についた。静も拳銃を出しておけ」  野生の勘なのか、何なのか……兄は目的地へ辿り着いてしまった。 カチャリとサングラスを押し上げる彼の前で、僕は 「分かった」  懐から自前の拳銃を取り出す。 と同時に、兄の顔を見て小さく頷いた。 準備万端だ、と示すために。 「じゃあ、お前は三十秒くらい時間を空けて入ってこい」  スナイパーから倉庫の警備をしている者達へ情報が流れていることを危惧し、兄はそう指示する。 『オーケー』と素直に了承する僕の前で、彼は前を向いた。 かと思えば、観音開きの扉を開け放って倉庫へ突入。 直ぐさま、複数の銃声と悲鳴が飛び交った。  そろそろかな?  体内時計でおおよそ三十秒経過したことを確認し、僕は慎重に中へ足を踏み入れる。 周囲を警戒しながら目の前の棚へ駆け寄り、辺りを見回した。 と同時に、口角を上げる。  あぁ、やっぱり────外部の勢力が武具を隠していたのは、ここだったか。  等間隔に並べられた棚から銃や防弾チョッキを見つけ、僕は改めて確証を得た。 『寝る間も惜しんで捜索した甲斐があった』と思いつつ、ホッと胸を撫で下ろす。 この量の武具が他者の手へ渡る前に確保出来て良かった、と。 無論まだ安心出来ないが、供給源を押さえられたのはかなり大きい。  いくら売人や購入者を捕らえても、大元を絶たなきゃ意味がないからね。  『また新しい人材を探せば、いいだけだし』と肩を竦め、僕はスマホを取り出す。 ────と、ここで倉庫の奥から兄が姿を現した。 「一先ず、中に居た連中は全員倒した。何人かは生け捕りにしたから、後で尋問しとけ」 「了解。仕事が早くて、助かるよ」  『お疲れ様』と労をねぎらい、僕はスマホで部下に連絡を取る。 さすがにこの量の武具を車一台で運び出すのは、無理そうなので。 『忙しいところ悪いけど、手伝ってもらおう』と思案する中、兄が目の前の狙撃銃を手に取った。 「えっ?それ、どうするの?」  『まさかのネコババ?』と驚く僕に、兄はこう答える。 「外のスナイパーを撃退するのに使う。運搬のとき、撃たれたら困るだろ」 「あー、そうだね」  曖昧に笑って返事する僕は、少しばかり考え込んだ。  本当は部下にスナイパーの始末を頼もうと思っていたんだけど……兄上に任せようかな。やる気満々みたいだし。 それにどうせ、もうやることもないからね。  見張りの意味合いも兼ねてこの場で待機するしかない現状に、僕は『ぶっちゃけ暇だよね』と思う。 まあ、休息を取れると考えれば悪くはないが……こんなところでただ突っ立っていても、疲労なんて癒せないだろう。 「じゃあ、スナイパーのことは兄上に任せるよ」  そう言って顔を上げると、怪訝な表情を浮かべる兄が目に入った。 「はっ?何言ってんだ?」 「えっ?」  動揺のあまり目を見開く僕は、『何って……?』と聞き返す。 すると、彼は手に持った狙撃銃をこちらへ差し出した。 「お前もやるんだよ」 「んん……!?」 「てか、お前が殺るんだよ」 「はい!?」  特に殺人に抵抗はないものの、まさか自分にその役目が回ってくるとは思わず……目を白黒させる。 『兄上が殺るんじゃないの!?』と困惑する僕を前に、彼は大きく息を吐いた。 「あのな、いくら俺でも居場所の分かんねぇスナイパーを狙撃は出来ねぇーよ」

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