19 / 20

第19話 クリスマスの贈り物

 どこにでもあるチェーン居酒屋で開かれた会社のクリスマス会。  持ち寄ったプレゼントをくじ引きで交換するイベントで、それは起こった。    くじを引いてプレゼントをもらうときは「嬉しい!あなたのファンです♡」と満面の笑みを浮かべ、プレゼントを渡す側になると「ずっと好きでした♡」と包装された個包を差し出す。  普段はキリッとしている先輩が酒に酔って壊れ、目も当てられない醜態を晒した。    悪ふざけしたおっさんたちの擬似恋愛が目の前で繰り広げられる。  酒がもたらす酩酊と歓楽的な雰囲気。  そして、クリスマスという非日常。  それらが全部合わさって、普段なら白ける空気を熱くする。    ドッと沸き起こる笑いの渦に、俺も周りに合わせて笑った。  心の中で、歯軋りをしながら。    俺にだけ見せる笑顔。  俺にだけ向けられる「好き」という言葉。  俺の、俺だけの先輩なのに。    なんだよ「あなたのファンです」って。  なんだよ「ずっと好きでした」って。    先輩の恋人は俺だろ。  先輩の童貞も処女も奪ったのは俺だろ。  なんで俺以外のモブに媚び売ってんだよ。  俺がドロドロとしたどす黒い感情を渦巻かせているのに、先輩は赤ら顔でヘラヘラと笑っている。  女性陣から「可愛い」なんてキャーキャー言われてにんまりしやがって。    明日は会社の定休日。  この後、先輩は俺の家に泊まる予定だ。  つまり、元々そのつもりだったんだけどさ。   ――覚悟してよね、センパイ?  *  突き飛ばされたベッドの上。  荒々しく体を暴いていくかっこいい恋人。   「俺以外、見るんじゃねえよ」    すべてを奪うような行為は、けれど蜂蜜を煮詰めたように甘くて重くて。  獣みたいな目に貫いかれて、胸が熱くなって……そして安心した。    会社のクリスマス会。  プレゼント交換で、彼は教育を担当している新人女性からコーヒーメーカーを貰っていた。   「ありがとう。嬉しいよ」    笑顔を向けられた新人女性の顔が赤くなる。  それが俺の胸を切りつけ、抉った。    やめてよ。  彼は僕の最愛なのに。    僕の気持ちに気付かない彼は、新人女性と談笑する。  はあ?  ちょっと…いや、かなりムカつくんだけど。  そっちがその気ならいいよ。  僕だってやってやる。    酒の力を借りて、普段は絶対にやらないことをした。  僕のキャラ崩壊に、同僚たちは驚きながらも楽しんでくれた。    でも、彼は同僚たちと同じ反応をする。  それは、僕が予想した反応じゃない。  本当なら、嫉妬丸出しの顔をしているはずなのに。  それが辛くて、寂しくて、最後は同期であり上司でもある課長に泣きついた。    そしたら、彼に無言で首根っこを掴まれて、タクシーに放り込まれた。  予定通り彼の家に行って、それから今、ベッドで愛されている。    それで、わかった。  僕も彼も、同僚たちに嫉妬していたんだって。  気持ちは真っ直ぐにお互いを向いていて、好きで好きで堪らないんだって。   「誰も見ない。君だけを見ているよ」    愛していると囁いて重ねた唇。  僕たちに贈られたクリスマスプレゼントは、揺るぎない愛の証明だった。
0
いいね
0
萌えた
0
切ない
0
エロい
0
尊い
リアクションとは?
コメント

ともだちにシェアしよう!