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催眠ってなんだよ? 1
講義の時間にタブレットを使ったりラップトップを開いたりしてるやつは結構いる。気にする教授もいるけど、そういう講義は最初に注意事項として言われるから減点される危険を犯すやつはいない。つーわけで、今日の講義は平気なやつだ。
かくいう俺は仲間で固まって後ろの席の一角に座っていたけど、睡眠不足がたたって机に突っ伏していた。
「ナオキいつまで寝てんだよ。昼飯行くぞ?」
「あーー、俺マジ眠いから行ってきていいぞ」
「うぃーっす」
みんなが「どこ行く?」なんて出ていったのを薄目で見送ったあと、でろーんと机に腕を伸ばしたまま顔を反対に向ければ一人ラップトップをタカタカと打っているやつが目に入る。
今日の講義ってそこまで大事なこと話してたっけ? なんて思ってちょっと気になった。
そっと後ろの席に移動してそいつの背後から画面を覗き込む。
「5,4,3,2,1……0?」
俺が意味がわからなくてつい読み上げてしまったらガタンとものすごい音を立ててそいつが立ち上がって思いっきり脚をぶつけてた。
「うがっ! いったー……」
「わぁ、痛そう」
涙目で俺を睨むそいつは、背丈は俺と多分そんなに変わらないくらいで、大人しそうなあんまり印象に残らない埋もれがちな容貌。でもシルバーのアンダーリムの眼鏡がちょっとエロい。あと俺よりも低音の声が渋い。
「他人のパソコンの画面を覗き見るとか失礼だろ。やめろよ」
「いや、俺、寝てたから大事な講義だったんかなって気になってさぁ」
「講義は全部大事だろ? 講義聞かないでスクリプト書いてた自分が言うことじゃないけど」
「スクリプト?」
さっきの数字のやつのことか、なんて思って聞いてみるけど答えない。でもなんとなくコイツが気になった俺は食い下がった。
「なあ、俺は猶木 義久 。お前の名前教えてよ」
「はぁ? ……っていうか、ナオキって下の名前じゃなかったのか」
「え、俺のこと知ってた?」
「うるさいグループの中心的人物」
「ひでぇ……」
結構ズケズケ物を言うコイツがなんだか気に入った。一人なのに堂々としててなんかかっこいいし、陰キャともなにかが違う。
妙に気になるとでも言えばいいのか、少しでも仲良くなりたいって思ったのは久しぶりだ。
「で、名前。教えて?」
「そんなに知りたいんだ?」
ちょっと冷たい眼鏡の奥の視線とほんのり上がった右の口角にゾクリとした。うんうんと頷けばしょうがないなという顔をする。
「タカミネ」
「それどっち!?」
「苗字。高いに山へんの峰で高峰 」
「下は教えてくれねぇの?」
「仲良くないのに教える必要が?」
なかなか辛辣だ。でもそこが面白い。こんなやつ同じ講義取ってるなかにいたんだな。
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