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いい子でいなきゃ 試し読み

社長の大和さんは木原さんの部屋に向かった。  とりあえず、荷物はリュックの中にある物と言っても本当にバスタオルとか私服とかしかない。事務員はみな事務服を借りるみたいだし……。それにご飯は……。どうにかしよう。 「んじゃぁよりちゃん次行くよ」 「はい」鍵をしめ大和さんの後をついていく。木原さんとどうにかして仲良くならないとな……。すごい睨んでくるけどきっと大丈夫。 「ここは製造室ね、基本的には特定の人しか入ってはいけないんだけど、事務営業もたまに出入りするから前原の名前は覚えておくように! 「ども、前原です、木原くんとよりちゃんだね、よろしくね」ここでも僕はよりちゃんと呼ばれていた。 「あの、どうして袖野だけ名前で呼ぶんですか?」木原さんはそう聞いていた。まぁどうみたってそうなるよね、と僕も待つ。 「え、だってよりちゃんまだ十八歳だよ、可愛い年齢じゃん、フレンドリーにいかないとおじさんたちに愛想良くしてくれないかもしれないだろ、もしかして木原くんも【きはらっち】とか呼び名欲しかったかな?」 「え、いらないです」  断固拒否のような顔をしていた。 「もしかしてよりちゃん嫌だった?」 「え……う、嬉しいです」にこっと向けると 「よりちゃんスマイル頂きました」と言われた。  またもや首を傾げる。 きっとここの人にとってはこの笑顔でも良いんだとまた笑顔を作った。 「社長が面接終わって言ってたんだよ、すんごい笑顔が可愛い男の子採用するわって。いやもうね、社長ナイスって感じよ」 「そうなんですね」にこっとまた向けると親指を立てられ「グッド」と言ってたので僕は少し恥ずかしくなってしまった。 「そういえば木原くんは結構滑り込みでうちに面接来たけど行きたいとこの会社落ちちゃったの?」 「それ、聞きますか?」 「うん、聞いちゃう」 「そうですよ、SPIがあと一点足らないとかで、東京の会社だったんですけど、そりゃもう残念っていうか」 「あー東京か、そりゃ厳しいね、でも一点か」 「うちはSPIとかそんなんそもそもないからな」 「たしかに」 「でもいいとこの大学卒業しているよね、土屋大学だっけ? ここらじゃ有名」 「はい、まぁ県代表する大学なんで名ばかりで中身は微妙なやつも多いですよ」 「そうなんだ、たしかあそこって幼小中高大一貫校じゃなかったけ?」 「あーすんごいお坊ちゃんじゃん」  土屋大学……。お兄ちゃんが通っているところだ。 「いやぁ俺大学だけなので」 「ええ!! 大学だけならなおさらいじめとか起きなかった?」 「あー一部やばいとこもありましたけど俺は大丈夫でした」  話が弾んでいるようなのでにこにこな笑顔のまま聞いていると急に木原さんは 「お前ってドM?」と聞いてきた。 前原さんと大和さんは慌てて僕の耳を塞ぎ、木原さんの口元を塞いでいた。 「そういうのは未成年にはよくないよ」と聞こえた気がした。  それでもいい、僕がここにいてもいい理由を自分で作らないと。  歓迎会の会場に移った。会社からは近く歩いて向かった。  製造に別れた野田さんとも合流し僕たちは真ん中の席に座った。 「ではでは僭越ながら挨拶は前原が担当します」 「いよ!!」拍手がなり前原さんはお辞儀をしていた。 「ええ、では本日も皆様お疲れ様でした、今日から仲間入りした三人、野田くんと木原くんとよりちゃんととても楽しい仕事になるよう皆様で作り上げていきましょう、それでは皆様乾杯!!」と宴が開始された。  僕はウーロン茶を頼みもみくちゃにされながら鍋をつついていた。  特に事務のおばちゃんたちに囲まれて「これ食べなさい」とか盛り付けられ箸を口に運んだ。 「はぁーよりちゃんみたいな男の子、本当に可愛い」僕はというとあまり男らしくもない体つきと堂々としていない態度で馴染みやすいとよく言われる。もちろん男性に見られたほうが嬉しいのはあるけど、なかなか野田さんや木原さんみたいにはなれない。 「お肉よそってあげるから」と器がモリモリになる。こんな食べたことないや。  口に運んでいると野田さんが来た。

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