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四つ葉のクローバー 試し読み

十二月一日 日曜日十八時開演。  混み合う会場はブザーと共に静まりかえった。  幕が上がり四台のピアノが出現すると大きな拍手と共に四人のピアニストが登場した。  四人は椅子に腰掛け準備が整ったところで指揮者の西園寺志揮(さいおんじしき)が体を大きく動かした。 その途端四人は一斉に同じ音を響かせ会場はビリビリとそして肌には鳥肌が立つような感覚を味わった。  演奏曲はベートーヴェン作曲ピアノソナタ第八番「悲愴」第一楽章。 この日のためにリーダーである斎木奏音(さいきかのん)が四台ピアノ向けにアレンジした曲でありどのグループにも真似できない演奏だ。 最初はとてもじゃないけど四人で弾くのは息が揃っていなければこのような力強い音は出ないだろう。  そして流れるように演奏された曲は幾重にも交差し広がり音を増幅させながら最後は四人で着地した。  第二楽章  先ほどの迫力の音と打って変わりなめらかでどこか眠りに誘われそうな音を響かせていた。一人で弾くにも美しく魅了されている曲だが四人で弾くとさらに際立っていた。  第三楽章  これまた第一・二楽章ではなく飛び跳ねるような速さを求めている曲に変わり眠気を覚まさせるような音が会場内に響いた。Rondo何度も音が繰り返されるような意味だがここでは違った。徐々に変化されていく音が新たな風景へと導いてくれる、とても素敵な音を奏でていた。  そして小さい音から始まり呼びかけるようにメロディーが組まれそしていくつもの音が調和し重なり合い緊張していた気分が解け、最後は四人で動じに着地した。  四人は立ち上がりお辞儀をした途端会場内は拍手に包まれた。  裏に退散した四人は口を開く 「お前、第二楽章の途中で音ミスっただろう」 「ごめん律、本当にあの後C弾かなくてよかったよ」 「まぁそこは懸命な判断だな、ていうか奏音かのんもだぞ、お前第三楽章の途中で音増やしやがって、変にならなかったのが救いだけど」 「うわぁーバレたさすが有名ピアニスト家族の財前律(ざいぜんりつ)くんだね~」 「お前、俺をバカにしてるんだったら演奏中に音増やすのまじやめろ」 「ええ、そこは上手くやっちゃうのが俺なんだから多めにみてよ」 「まぁ確かにお前がいないと四台ピアノは演奏できねぇけど」 「でしょでしょ」 「調子に乗るな!!」いがみあっている二人を見ながら声をかけた。 「こぉら、二人ともここはまだ舞台裏だよ、客席に聞こえちゃうかも」  二人は目を合わせリーダーである奏音はこちらに来た。 「志揮はいつも通りかっこいい演奏してたよ」 「天才ピアニストの斎木奏音に言われたら俺も最高の気分だよ」 「ちょっお前、志揮も立派な天才ピアニストじゃんか」 「俺は弾けてもアレンジはできない、ましてや一人で弾く曲を四台に増やしそれを一日で仕上げるなんて不可能だよ、奏音だけの特別な能力だ」 「うぃーそんな褒めてくれてもなんもでないからな」  二人でいちゃいちゃしていると口を挟んだのは律だった。 「相変わらずのゲイカップル、うげぇー(ひびき)あっち行ってようぜ」 「う、うん……」  二人は控え室に向かった。俺と奏音は二人で別の演奏があるため待機。 あとそれと律がゲイカップルっていうけど奏音からまだ返事もらってなくて一方的な恋みたいな感じなんだよね、だからまだカップルじゃないしそもそも奏音に出会う前は女性と恋仲だっただからゲイでもない、奏音も「ゲイでもホモでもないよぉ~」って言ってたから多分ゲイカップルには当てはまらないはず……。 まぁでも律のようにああ言われるのはいたし方ないのかもしれない。 「出番だよ、頑張ろうね志揮」 「ああ」  二人で舞台に上がり公演を終えた。

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